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第32話 おまけ 僕の彼氏は変わり者★

 僕の彼氏は変わり者だ。だって、僕の外向きのキャラクターである『小井出遥』として一日を過ごし、振り回して欲しい、なんて言うんだから。  役者である僕からすれば、なんてことないお願いだけど、わざわざ振り回して欲しいだなんて、やっぱり和博さんは少し変わってる。 「遥、そろそろ起きる時間だ。今日はデートの約束だろう?」  和博さんのベッドで寝る僕を、優しい声で起こしてくれる和博さん。そんな優しい声で言われたら、素直に聞いちゃいそうだよ。けど、僕は今『小井出遥』なのだから、僕は和博さんを困らせないといけない。 「やだ……そんな気分じゃない」  いかにも眠そうに、だるそうに、僕は目も開けずに呟く。ふっと和博さんが笑った気配がして、それから額に柔らかいものが触れた。和博さんのキスだ。……優しくて好き。 「困ったな。どうしたら起きてくれる?」  言葉では困ったと言いながら、和博さんは全然困ってなさそうだ。むしろ嬉しそうな声に、僕は不機嫌を演じるしかない。 「キスして」  目を閉じたままそう言うと、和博さんはちゅっと軽く唇にキスしてくれた。嬉しい。嬉しいけど、『小井出遥』はこんなのじゃ納得しない。 「もっと」 「……困った恋人だな」  やっぱり嬉しそうな声がして、また唇にキスを落とされる。今度は僕からも和博さんの唇を吸うと、それがだんだん深いキスに変わっていった。  互いの唇が唾液で濡れていく。神経が研ぎ澄まされていくのに思考は溶ける。僕はもっと和博さんと深く交わりたくて、舌を出した。 「ん……ふ……」  和博さんが僕の舌を食んで吸い上げた。途端に腰の辺りがゾクッとして身体が震える。気持ちいい。  僕は和博さんの首に腕を回すと、そのうなじを指先で撫でた。軽く声を上げた和博さんの声が色っぽい。 「……っ、こら……いい加減起きなさい」  デートに行けなくなる、とボヤいた和博さんの唇を、僕はまた塞ぐ。そして和博さんの胸を、シャツの上から撫でた。『小井出遥』はそう簡単に相手の言うことは聞かないんだ。 「和博さん、僕、えっちしたくなっちゃった……」 「遥……」  僕は目を開け、和博さんの綺麗な瞳を見つめた。普段ポーカーフェイスな彼の瞳は、僕と同じように欲情が乗っている。かわいいなあ、と和博さんの頬を撫で、眼鏡を取った。 「遥、デートは……」 「そんなのいいから。……ね?」  眼鏡をサイドボードに置き甘い声で囁くと、和博さんは僕の胸に顔をうずめてくる。どうしたのかと思っていると、ブツブツと何かを呟いていた。 「すさまじい破壊力の顔と声……これで手を出さずにいられるか? いやいられない!」  どうやら手を出すか出すまいか、迷っていたみたいだ。ひとり反語を叫んだかと思ったら、ガバッと音がしそうなほど勢いよく、和博さんは顔を上げる。その顔は真剣そのものだ。 「……遠慮なく頂く」 「え……」  ちょっと和博さん? 目が据わってて怖いんだけど! 「え、ちょっ……デートは?」 「遥がしたいと誘ってきたんだろう」 「それはっ! 和博さんが振り回してくれって……!」  僕のプランでは、そう言いながらもえっちはデートの最後に、ってなる予定だったのに、和博さんはもう聞いていないのか、僕の頬や首にちゅっちゅとキスを落としてくる。くすぐったいのか気持ちいいのか、訳が分からないまま僕の下半身の服は剥かれ、和博さんが入ってきた。うそ、まだ慣らしもしてないのに! ってか早いよ! 「……っ、か、和博さん……っ」 「ああ遥……きみは本当にいい子だな」  苦しい。苦しくて生理的な涙が目尻から落ちる。和博さんはその涙を親指で拭うと、僕の中で和博さんの大きいのがひく、と動いた。僕は堪らず声を上げる。 「あ、や……っ、動かさないで……」  はあはあと大きく呼吸しながら訴えると、和博さんは苦しそうに顔を歪めた。うわ、和博さんいきたそう……。僕の後ろがひくつく。 「遥……動いていいか?」 「だ、だめっ」  顔に当たる和博さんの息が熱い。ふうふうと息を切らしながら、僕の唇をまた啄み始めそしてさらに和博さんの表情が苦悶のそれになっていく。 「遥……! かわいい綺麗な私の遥……!」 「ああもう! 分かった、分かったから!」  そんなに抱きたくて堪らないって顔されたら、こっちも良いよって言うしかないじゃないか。そう思って僕からキスをすると、和博さんはいきなり激しく突いてきた。 「あ! ──ああ……っ!」  ゾクゾクする。腰の奥からジワジワとそれは大きくなって、僕の脳で快感として変換された。慣らしていなくてキツイはずなのに、和博さんとのえっちは幸福感が半端ない。 「遥は……えっちが好きだな……!」  ガンガンと僕を貫きながら和博さんがそう呟く。好き? そうだ、僕はエッチなことが好きだ。でもそれは相手が谷本でも、キモデブ親父でもなく、和博さんだから。  こんなに気持ちよくなるセックスも、和博さんとしてから覚えたんだ。心と身体が満たされる経験を、和博さんと一緒にしたから。 「あ、あ! 和博さんっ! ──いく……っ」  僕はそう叫ぶと、触ることなく勃ち上がった僕の先端から情熱が迸る。同時に中でもいったらしく、和博さんは顔を顰めて動きを止めた。 「……っ、う……っ」  色っぽい和博さんの顔、好き。そして僕がいったあと、嬉しそうに笑う顔も好き。 「遥、いい子だ。……もっといけるだろう?」  そう言って僕の首元を強く吸う和博さん。僕は全身を痙攣させながら、こくこくと頷いた。  いっぱい、いっぱいいかせて。もっと僕を愛して。  そう和博さんの耳に囁くと、和博さんは約束通り僕を愛してくれた。  もちろんデートは、お預けだ。 《おまけ おわり》

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