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第2話
授業が終わり、比呂は職場から徒歩三十秒の自宅に戻り、自室でそのまま寝ることにする。
母親からも「咳が止まらないなら貴之くんのところに行ったら」と言われたが、先ほどの会話が脳裏をかすめて気分が悪いので、無視して部屋に上がってきてしまった。
とはいえ、隣の貴之からはいつも酷くなる前に来いよとは言われているのだが……。
隣に住む槇貴之は、生まれた時からほぼ一緒の幼馴染。今は槇医院の若先生として、地域医療に貢献し子供達から(いや、むしろその親たちから)絶大な信頼を得ている。
一方、比呂は大学の教育学部を出た後に、激務の教職を断念し、予備校講師となったが、そこの人間関係に心身ともに疲れ果て地元に戻ってきた。以来、実家の母親が運営している学習塾の専任講師をしている。
この辺りの子供たちは体調が悪ければ「槇医院」で診てもらい、勉強に困れば「青柳塾」で勉強を見てもらうのが日常なのだ。
ゲホ……ゲホゲホゲホ。
一度始まると、咳が止まらない。もう腹筋が痛いというか、肺も痛い感じさえする。
最初は風邪かと思ったけど、どうも痰が絡んできてぜろぜろするのは……。
やっぱり考えたくないけど、喘息の症状だ。
ここしばらく症状が出てなかったので、調子に乗って薬を服用していなかったのが裏目に出た。
「きちんとこれを飲んで、コントロールしてくれよ」
そう言ってコントローラーとリリーバーの処方箋を出してくれたのは、槇医院の若先生。子供たちが言うところの「マキ先生」。幼馴染の貴之だ。
実家の医院では小児科医として頼られているが、元々の専門は呼吸器内科だという。
そんな貴之の言葉に、はいはいと頷いて、そのまま薬を転がしておいたのは自分。
いつもそうなのだが、調子がいい時は彼の言葉を聞き流してしまい、こうなってから後悔する。本当に自分は懲りない。
あーしんどい。
咳が止まらなくて、うまく息が吸えなくて息苦しい。
空気を求めて仰向けになるが、余計に咳が出て苦しくなり、横向きで身体を丸める。
咳って体力使うんだよな……。
ゲホゲホゲホ……。
そんなことを思いながら、口から咳が止まらない。
もう息苦しいし、色々疲れたかも……。
ぼんやりと思いつつ布団の中で耐えていると、呼びかけてくる声が。
「比呂!」
馴染み深い聞き覚えのある声に、布団から少し顔を出すと、やはり。
白衣姿の幼馴染の姿があった。
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