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第3話
「……あ、たかゆ……ゲホッ、ゲホゲホ!!」
名前も呼べない……。呼吸もできずに、ただ耐えるため、毛布を口元に当てた。
「辛そうだな」
そんな姿をみた貴之は動じることなく手を伸ばしてくる。
「ちょっと診せて」
そう言われて、手首を取られバイタルを取られたあと、ポケットに入れていた聴診器を取り出し、そっと布団に手を入れてくる。
「無理しなくていいから、ちょっと呼吸だけ聞かせて」
インナーシャツの上から聴診される。幼馴染に診察されるのはかなり恥ずかしいのだけど、それ以上に苦しくて、なされるがままになる。
貴之は、比呂が体調を崩すとどこかから聞きつけてきて、世話を焼いてくれる。頻度としては体調を崩して風邪や喘息が多いのだが、辛いと思った時にいつも助けてくれるのだ。
持病の喘息については別の病院にかかろうと思ってはいるのだが、いつも悪化するまで放置してしまい、気づかれるのがおおむねこいつ。浩太の「マキ先生の患者さん」はまさに否定はできずその通りだが、小児科ではない。そこは断じて。
比呂の胸元に手を入れて聴診していた貴之が呟く。
「すげー雑音だな。喘息で間違いないな。しばらくは調子が良かったのにな。すぐに楽にしてやる」
そう言って手を握ってくれる貴之の手は暖かくて。
縋ってしまいたくなる。
いつも言いつけを破って無理をしてしまうのは自分なのに。
自己管理をきちんとしろと言われてもできないのは自分なのに。
「ちょっと頑張れな?」
そう言ってくる顔は本当に頼もしくて。優しい。
貴之がいてくれれば大丈夫と、いつも思ってしまう。
「……う……ん」
比呂はそう静かに頷いた。
「薬はあるか?」
そう言われて、首を横に振った。どこにあるのか、無くしてしまった。
「バカが」
そう貴之に罵倒されるが、おそらく彼の中では想定内。白衣のポケットから、以前彼から渡された吸入器と同じ物が出てきた。
「頑張って一回吸ってみよう?」
呼吸しやすいようにと身を起こされて、白衣の身体にもたれかかる。
比呂は思わず、それを握った。
「大丈夫だから」
そう励まされて、吸入口を口元に持ってこられる。咥えて、息を吸い込むが、うまく吸えてる感じがしない。思わず唇の力が抜けるが、貴之に支えられる。
「ほら、もう少し。頑張って」
背中を気持ちいい手がさすってくれる。もう少し……と震えながら息を吸い込むと、重い胸に少し軽さが感じられた。
「よしよし、頑張った。もう一回な」
そう頭を撫でられて、絶え絶えにも吸入する。
偉い偉いとあやされて、口から吸入器を外された。目の前は貴之の白衣の胸元。目を閉じた。
「少ししたら楽になると思うから」
そう言いながら、イヤーチップを装着した貴之の手が、インナーシャツの中に入ってきた。
少しずつ呼吸が楽になってきた。
目を開け、顔を少しあげると、呼吸音を真剣に聞いている貴之が気づいたようで。
身体を支えてくれている左手が、トントンと優しく慰めてくれる。
僕の幼馴染は格好いいな……。
そんなことをしみじみ思った。
「少しずつ肺もクリアになってきたな」
貴之はそう言った。
「……ごめん」
声にはならないくらいの弱い声で比呂は謝り、その安心できる胸の中で意識は落ちていった。
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