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異国の風習に初参加 4
何か言いたそうなリューには気づいていたけれど、とにかく早く隠れ家に戻りたかった僕は帰路を急ぐことを優先する。
そして漸く戻ってくると、いつものソファーにさっさと腰掛ける。
「……アルヴァーノ」
「んー……何?」
「お前、ギルド長と何を話していた?」
「あー……大したことは話していないよ。気になる?」
僕が意味深に笑いかけると、リューの眉が訝しげに寄る。
その顔がおかしくてクスリと笑うと、更に一層訝しげな表情になっていく。
「本当に大した話はしていないから。ほら、リューも座って」
隣に来るようにと、僕の隣をポンポンと叩く。
どこか警戒はしたままだけれど、リューは大人しく隣に来てソファーに腰掛けた。
「本当に対したことじゃないんだ。ギルド長が教えてくれたのはね、もちつきには別の意味もあるっていうことだけ」
「別の意味?」
「そう。あのもちつき自体には……別の意味もあるかもしれないけれど、それは分からない。そうではなくて、もちつき、という単語に意味があるんだって」
「単語……」
リューは僕の言葉を反芻しながら何やら思案している。
でも、そんなに考え込むようなことでもなんでもない。
要はただの例えの話。
本当に大したオチもないような、他愛の無い話。
もっと近くに寄って欲しいと手招きする。
リューはやや警戒しながら、静かに僕に身体を寄せてくる。
そして僕は寄ってきてくれた耳元で囁く。
「もちつきには、男女の営みの隠語としても使われることがあるんんだって。受けるうすは女性、きねは男性。お互いに叩き合って……そして、とろけあう」
フゥっと、息を吹き込んで囁いてみるとリューが一瞬だけ肩を震わせてから、僕と視線を合わせてくる。
「まさか、それが……」
「うん。それだけ。まぁ、僕らはどちらでも構わないけれど……」
僕が笑って言いかけたところでリューに両肩を掴まれてしまう。
そして――
気づいた時には天井とリューの顔が真上に見えた。
「つまり……俺がきね、お前がうす。そういう解釈になるが間違いないな?」
「え……えぇー……そういう感じになる?」
「お前の言ったことをそのまま反芻したにすぎないのだが」
「……まぁ、そうだね。ということは、今日はリューがしてくれるっていうこと?」
僕が誘うように笑むと、リューの表情も少し緩んで口端が笑んだ……ような気がした。
大人しく僕が目を閉じると、フッと、呼気で笑ったリューの唇が降ってくる。
乗り気じゃなさそうだったのに、リューがその気になってくれるのならば。
僕は喜んで「うす」に。
リューは「きね」に。
ソファーが軋んだ音を立てても気にせずに、このまま二人で「もちつき」を――
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