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第27話

午後からも、ご機嫌に仕事に励む。 早く家に帰って、先輩の匂い堪能したい。 いや、そりゃ生の先輩が一番だから、なんなら一生定時はきてほしくないとまで思うけど。 ふと顔を上げると、先輩に蛇目さんがマグカップを持っていき、何か話しかけていた。 「あいつ……。」 先輩からの好感度上げようって魂胆か? 出張一緒だからって調子乗りやがって。 先輩に淹れる珈琲、俺が負けるわけない。 コーヒーメーカーの前に立って、先輩の大好きな味を作る。 その間も何もないか、じっと先輩の方を見つめていると、先輩はカップに口をつけて口元をわずかに歪ませた。 「あれ?珈琲お嫌いでした?お飲みになってるイメージあったんですが…。」 「いや、美味いよ。大丈夫。」 「でも今明らかに…」 「気のせい…、え?」 先輩がもう一度カップに口をつけようとしたのを横から取り上げる。 無理して飲まなくていいのに。 本当、先輩ってば優しすぎる。 「先輩の好みも知らないのに、珈琲淹れて好感度アップしようなんて無駄ですよ。」 「城崎…」 先輩のために淹れてきた甘い珈琲。 先輩の目の前に置くと、先輩は明らかに動揺した顔をしていた。 「先輩はこっち飲んでください。ちゃんと先輩の好きな味に作ってきたので。蛇目さんが作ったのは俺が飲みます。」 俺以外が作ったのを口にするな。 って本当は言いたいけど、それは物理的に無理だ。 でもせめて、俺がいる時くらい、珈琲は俺が作ってあげたい。 そして先輩から奪ったマグカップ。 何も考えずに奪ったけど、さっきまで先輩が飲んでたんだよな…。 わずかにツヤツヤ光る、おそらく先輩が口をつけていた箇所。 そこに口を付けて、珈琲を一気に飲む。 間接キス、嬉しい。 小学生の恋愛みたいな喜び方だけど、今の俺はそんな些細なことでもすごく幸せだ。 先輩は俺の方を見つめて、目が合ったと思うとハッとしたように俯いた。 俺の淹れた珈琲に口を付け、嬉しそうに口角が上がったのを見逃さなかった。 「やっぱり主任、私の作ったのは苦手だったんですね。」 「え…?」 「城崎くんの珈琲は凄く幸せそうな顔で飲まれてるじゃないですか。私の珈琲飲んでた時、お顔が歪んでましたよ。」 蛇目さんもよく見てんじゃん。 そうだよ、先輩の好みの味、俺知ってるもん。 「先輩、明日からも俺が作っていいですか?」 「いや…、いいよ。自分で作る。」 チッ…。 なんかそんな気がした。 でもここでめげちゃ駄目だ。 「作らせてください。……ダメ?」 「ダメ…じゃない……けど……。」 「じゃあ明日から、また先輩の珈琲係に復活しますね。」 押したもん勝ち。 諦めなくてよかった。 先輩は困った顔をしたけど、やっぱり無理と断られる前にデスクに逃げた。

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