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第26話
「…っ!」
「先輩、体調大丈夫ですか?」
心配で堪らなかった。
以前よりも少しだけは健康そうだけど…。
抱きしめたら、先輩の細さ分かるんだけどな。
「大丈夫だからっ…!………離して。」
「………すみませんでした。」
手を握っただけでこれだもんな…。
抱きしめさせてくれるわけない。
俺もショックだから、自分が傷つかないように引き下がった。
午前中は先輩の顔をちらちら見ながら仕事した。
可愛くて、見てるだけで幸せで、どうにかなってしまいそうだ。
昼休みになり、先輩はどこかへ行ってしまった。
以前みたいに俺がお弁当を作ってあげてるわけじゃないから、食堂かコンビニか、それとも外に食べに行ったか。
追いかけて、自然なふりして相席してみようかなー…なんて思っていると、視界の隅に入った柳津さんに手招きされた。
「なんですか?」
「なんですかって、おまえ…。持ってきたぞ。」
「……!!!」
手渡された紙袋の中には、先輩がよく着てるパーカーが入っていた。
やべぇ…。国宝レベルに貴重なものに見える…。
「ありがとうございます!!!」
「そんなに喜ぶのかよ…。」
「洗濯してないですよね?!」
「あー、してないしてない。今朝脱ぎたてほやほやだわ。」
「!!!」
じゃあ出勤して一番に寄越せよ!!って言いそうになった。
うわ、まじか。まじか…。
めちゃくちゃ嬉しい…!
「柳津さん、ほんと神…。」
「おう。もっと崇めろ。」
「何でも言うこと聞きます。本当にありがとうございます。」
「よし。てかおまえ、今日まで仕事手ぇ抜いてたろ。綾人が出勤した途端、仕事の早さ倍以上じゃねぇか。」
「すみませんでした。柳津さんに提出するの、そんなにやる気にならなかったんで。」
「おいこら。」
冗談…ではないけど、本音を冗談っぽく言うと頭を小突かれた。
柳津さんは先輩と昼ごはんを食べると言い、行ってしまった。
なんだ、柳津さんと約束済みかよ…。
と思いながら、もらった紙袋を両手で抱きしめ、使われてない会議室を探す。
「〜♪♪」
「えー、城崎くんご機嫌?」
「可愛い〜!」
鼻歌を歌っていると、通りすがる女性職員に揶揄われるが、今はそんなことどうだっていい。
空いている会議室を見つけ、中に入って内側から鍵を閉めた。
紙袋からパーカーを取り出し、ぎゅっと抱きしめて顔を埋める。
スゥッと息を吸うと、先輩の優しい匂いがした。
「あー…やば………。」
めちゃくちゃ触れたい。
先輩に触れて、抱きしめて、キスしたい。
可愛い声で、俺を求めて啼いてほしい。
「先輩っ…、せんぱぃ……」
会議室だからさすがに色々自重するけど、本当は今すぐ先輩を想って全てを吐き出したい気分だった。
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