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第29話

ピチチ……。 鳥の囀りに目を覚ます。 やべー…、めちゃくちゃ寝てた……。 時計を見ると7時を過ぎていた。 「やべ…。」 時間ないけど、シャワー浴びないと下がやべぇ。 アラームかけて寝るんだった…。 シャワーをささっと浴びて、スマホを見ると、柳津さんからメッセージが入っていた。 『城崎、ごめん!綾人のパーカー返して!!』 は…? 無理なんだけど。 『無理です。』 『いやマジで頼むって!綾人に服ないのバレたんだよ!!今日そっと置いとくから、頼む!!』 『久々にぐっすり眠れたのに。大体なんでバレるんですか?』 洗濯に時間かかったとか適当な誤魔化ししとけばいいのに。 バレる要素ある? 俺あと一週間は借りようと思ってんだけど。 『綾人が俺の部屋にしばらく住むことになったんだよ。だからマジで今日持ってこいよ!』 は…? キレそうなんだけど。 いいな…。柳津さんズルすぎる。 俺だって先輩と一緒にいたいのに。 『ズルい。先輩と一緒にいれるなら服の一つくらい俺に譲ってください。』 『譲ってやりてーのは山々だけど、とにかく返せ!』 こんなやり取りしてる暇ないのに。 うわー、遅刻する…。 色々考えた結果、交換条件を出してみる。 『返す代わりに、先輩のこと説得して帰ってこさせて。』 『説得できるならしてる。』 『じゃあお昼休み先輩と話できる権利ください。』 『いや、無理だろ。とにかく何か考えとくから、パーカー持ってこい!!!』 それからメッセージは返ってこなくなった。 なんだよ、何かって。 俺が満足できることならいいけど……。 モヤモヤしながらも、何かご褒美がもらえると信じて紙袋にパーカーを入れた。 まさかこんなすぐに俺の手を離れてしまうことになるなんて…。 これよりいいご褒美じゃないと、いくら歳上だろうと関係ない。俺はキレる。 話できる権利って、割とハードル低いと思ったんだけど…。 即レスで無理って断られるとか、どんだけ脈ないんだよ。 昨日の反応、やっぱり見間違いだったのかな…。 パーカーを大切に両手で抱えながら、駅までダッシュで走った。 こういうとき、脚長くてよかったと思う。 乗りたい電車…と言っても、始業間に合うまでの最後の電車になんとか乗車する。 少し遅いからか、満員電車ほど混み合ってはなかった。 柳津さんの家の近くのホテルとかに泊まろうかな…。 先輩と同じ時間に家出て、満員電車の人混みに乗じて先輩に触れちゃ………ダメか、さすがに。 先輩不足すぎて思考がヤバい。 変態と考えること一緒で泣けてきた。

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