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第30話

なんとか始業時間ギリギリにデスクに着いた。 真剣な顔でパソコンと向き合う先輩を見つめてぼーっとしていると、後ろから肩を叩かれる。 「ちょっといいか?」 「……はい。」 振り返ると、立っていたのは柳津さんだった。 はいはい。早く返せってことね。 そう思って、紙袋を持って後をついていく。 「これですよね。」 「あー、それもなんだけど…。」 「他に何か?」 「一個確認してもいいか?」 「…?はい。」 柳津さんは紙袋を受け取り、真面目な顔して俺の目を見た。 「浮気、してないよな?」 「は?してないですよ。するわけないじゃないですか。」 「そうだよなぁ…。」 「何?先輩がそう言ってたんですか?」 「いや、忘れて。」 いやいやいや。 忘れられるわけないだろ。重要だろ。 俺が浮気?今まで先輩にしか浮ついてないこの俺が? それが理由に避けられてるなら、尚更ちゃんと話し合いたいんだけど。 いろいろ言おうとしたら、柳津さんが先に口を開いた。 「昼休み、空いてるか?」 「空いてますけど、何ですか?」 「………綾人と、二人きりになってみる?」 「………!!!」 驚いて言葉が出なかった。 え、会っていいの? 話す時間を取るのは無理だって言ってたのに。 先輩はいいって言ってるのか? この人がパーカーのことバレないように勝手にセッティングしただけとか…。 「触れる許可は綾人から得てるから。」 「触っていいんですかっ?!」 「条件付きだけど。」 「何ですかっ?!」 食い気味に確認すると、柳津さんは苦笑しながら答えた。 「あんまりがっつかないこと。触れるつっても、手握るとか、それくらいにしてやって。」 「わかりました。」 「綾人さ、最近城崎の前だと過呼吸なったりするじゃん?」 「はい……。」 「あれ、治したいって思ってるんだって。だから、少しずつ距離戻せばどうかなって、提案してみたんだよ。」 「ありがとうございます。本当に…、本当にありがとうございます。」 もしかしたら、もう先輩に触れられないかもしれないと思ってた。 どうしよう。 嬉しい。嬉しすぎて動悸がする。 「会議室取ってるから。綾人には先に待っててもらうから、城崎は5分くらい遅れて来てくれるか?」 「わかりました。」 「よし。じゃあ昼休みな。」 柳津さんは俺の肩にぽんっと手を乗せ、部署に戻って行った。 俺はというと、嬉しすぎてソワソワしまくって、午前中は使い物にならないくらい仕事が進まなかった。

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