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第31話
待ちに待った昼休み。
先輩は柳津さんに連れられて、一足先に部署を出て行った。
タイマーを入れ、じっと席で待つ。
5分…。5分後に先輩と二人きり…。
長いような短いような5分間。
タイマーが0になる瞬間に、約束の会議室の前に到着した。
「時間ぴったりすぎるだろ…。」
俺を見つけた柳津さんは時計を見て苦笑する。
「早く先輩に会いたい。触りたい。」
「言っとくけど、約束通り、がっつくなよ?」
「気をつけます。」
「あと、綾人が過呼吸起こしたりとか、拒否ってきたらどうする?」
「………俺は退室して、柳津さんを呼びます。」
「行ってよし。」
本当は俺が抱きしめて安心させてあげたいけど、今の俺じゃ、きっと逆効果なんだと思う。
柳津さんの望む答えを返すと、会議室に入る許可が降りた。
大きく一回深呼吸を挟み、ドアノブを握った。
会議室に入ると、窓の外を見つめる先輩が立っていた。
「………先輩。」
「っ…!」
声をかけると、先輩は肩を震わせて驚き、俺の方へ振り返った。
ヤバい。緊張する……。
「近づいてもいいですか…?」
「……うん。」
許可をとって、一歩ずつ先輩に近づく。
先輩は顔を赤くして、合わせていた視線を床に逸らした。
見てないことをいいことに、大股でさらに近づく。
先輩の目の前に立つと、先輩は小さい声を発した。
「近…すぎない……?」
「そうですか?触れていいって聞いたんですけど…。」
「い…ぃ…けど……。」
よかった。
いきなり断られたら、どうしようかと思った。
触れるって、まずは何だ…?
「手、握っていいですか?」
そう聞くと、先輩は小さく首を縦に振った。
可愛い…。
包みこむように両手で先輩の右手に触れる。
爪、指の間、手のひら。
俺の体温が伝わるように、ゆっくり優しく、丁寧に触れる。
「大丈夫…?」
「ぅ……ん……」
「よかった…」
触っても過呼吸は起きなかった。
ほっとして安堵のため息をつく。
これ以上、触れてもいいだろうか…?
先輩に近づきたくて、俺は先輩の手の甲にキスをした。
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