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第38話

「ちょっとぉ…、夏くん、飲み過ぎよぉ…?」 「放っといて。もうどうでもいいんだよ…。」 あの後俺は、通りすがりの人に声をかけられるまでその場で固まっていた。 先輩の言葉が受け入れられなくて。 声をかけてくれたのはお年を召した男性で、ずぶ濡れの俺を心配して近くに家があるからと招いてくれたけど、俺は丁重に断り、お礼を言って家に帰った。 一人でいるのは辛くて、こうして知人のいるAquaに()()酒をしにきたわけである。 「あーん、透ちゃぁん!やっと来た〜!」 「何だよ、麗子。急に呼び出して。」 「もぉ、見てよぉ!夏くんがこんなになっちゃって…。」 「あ?」 隣に誰かが座る。 あぁ、この煙草とエロい香水の匂いは…。 「おまえが泣いてるなんて、珍しいな。」 「透さん…?」 「へぇ、まだ人を判別できる程度には意識あるんだな。」 「ちょっとぉ!感心してないでどうにかしてよぉ!」 「はいはい。……で?話聞いてやるけど?」 麗子ママが呼んだのか…。 透さんに話して何が解決するわけでもないし。 それに、この人に話したら……。 「おいこら。せっかく来てやったんだ。何とか言えよ。」 「先輩に……、距離置こうって言われた……。」 ぼそぼそと小さい声でそう答えると、透さんは堪えきれないようにくすくす笑っていた。 ほらね、最悪。 人の不幸を笑うなんて…。 「そりゃあ、逃げたくもなるだろうよ。おまえの執着心凄かったろ。そんなに関わってなくても分かる。」 「透さんには言われたくないです…。」 「クッ(笑)それもそうだな。……で?実際のところ何があったんだよ。なんか理由あるんだろ?」 「分かってたら苦労しませんよ…。でも、俺に非があるのは確かですけど…。」 「ふーん…。」 透さんは煙草を吸いながら、度数の高い酒をショットで何杯も飲んでいた。 相変わらず酒に強すぎるし、体に悪そう。 しかもこの人、ヘビースモーカーのくせに、恋人の前だったら絶対に煙草吸わないの本当凄いと思う。 俺はそんな器用なことできないから、やめたけど。 「見過ぎ。何だよ、煙草欲しいか?」 「……いる。」 「ん、やるよ。」 透さんから煙草を一本貰う。 久しぶりだな……。 柳津さんの誕生日パーティーのときに、嫉妬した以来か…? 「もう一本ちょうだい…。」 「いいけど。あんま吸うなよ、またハマるぞ?」 「分かってる。でもイライラしてるから、吸わないとやってらんないんです。」 「望月さんにか?」 「なわけないでしょ。俺自身に、です。」 透さんはいつもそうだ。 根掘り葉掘り聞こうとはしない。 あくまで俺が自分で話したいと思うことだけ聞いてくれるから。 麗子ママもそれを分かって透さんを呼んでくれたんだと思う。

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