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第37話

もう近くまで来ているのだろうか? それとも、途中で気持ちの変化があったのだろうか? 分からなくて、とにかく傘もささず、無我夢中で走った。 駅までの通り道、マンションが見える路地で、小さくかがみ込んでいる先輩がいた。 「先輩っ…!!!」 抱き寄せると、先輩は小刻みに震え、また息を乱していた。 はぁ、はぁ、と苦しそうに息を吐きながら、俺の体を押し返す。 「……っ、ぁ、やだ…っ」 「先輩っ!先輩っ!!」 「ごめん…、ごめんなさい……っ」 先輩は謝った。 何に謝っているのか分からなくて混乱する。 「先輩、ゆっくり息して…。深呼吸して。大丈夫…、大丈夫だから…。」 「ひぅっ…、うっ…」 できるだけ優しい声で、ゆっくりと話しかける。 背中を摩ると、先輩はなんとか息を整え、ちらりと上目遣いに俺を見た。 「………城…崎…?」 「うん。俺ですよ…。」 可愛い。 頭を撫でて目を見つめると、先輩はまたほろりと涙をこぼした。 「うっ…、ひっく…、ごめんなさい……。」 「何で謝るの?」 「ごめん…。ごめんな…っ。」 「先輩……」 謝ってほしいわけじゃない。 ただ、俺の元に帰ってきてほしいだけなのに。 むしろ謝るのは、こんなことになる原因を作った俺なのに。 「城崎……っ」 先輩は震える手で俺の服を握りしめた。 何か伝えようとしているのを、ゆっくりと待つ。 「距離…っ、置きたい……。」 「え……?」 先輩の口から発せられたのは、俺には受け入れ難い申し出だった。 なんで? そんな話をするために、俺に会いにきたの? 「時間が…欲しい……っ」 「嫌だ。嫌です。どうして?」 「……お願い……」 「だって距離置いてどうなるんですか?解決するんですか?」 そうだ。何も解決しない。 距離を置いてできるのは、心の距離だけだ。 別れる前兆…? そんなの許さない。絶対に嫌だ。 「もう…苦しいんだ……。」 「俺は一緒にいない方が苦しいです。」 先輩はきっと、何か勘違いしてるだけだ。 だって柳津さんも言ってた。 先輩も過呼吸とか治したいと思ってるって。 それって、俺のことが嫌いじゃないってことでしょ? また戻りたいって、そう思ってくれてるって思ってもいいんだよね? 「俺の話、聞いて?話したら解決するかも…」 「ごめん。」 先輩は俺の話を遮って逃げ出してしまった。 俺は豪雨の中、ショックでその場から動くことができなかった。

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