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第44話
先輩とは必要最低限の会話しかしなかった。
仕事の進捗状況とか、プレゼンの資料の提出とか、本当それくらい。
だけど一言、業務的なことだとしても、俺に向けられていることに意味がある。
先輩は決して目を合わせようとはしないけど、仕事としてだけは関わってくれた。
その夜、柳津さんから連絡が来た。
『綾人、おまえの料理全部食ってた。久々にあいつが飯食ってるとこ見たわ。』
そのメールで、俺がどれだけ安心したことか。
俺の料理なら食べてくれる。
それがどれだけ嬉しかったか。
また作って持っていこうと思った矢先、柳津さんからは『綾人が気を遣うから毎日はダメ。』と連絡が来た。
多分柳津さんは、先輩のこと心配してるから俺に作れって思ってくれると思うけど、これは多分先輩からの拒否。
浮上した気持ちが一気に落ちる。
先輩って、上げて落とすの得意だな……。残酷な人。
「と、まぁ色々あって。」
「夏くん、献身的ねぇ〜。」
週末のAqua。
俺は今週の出来事を麗子ママに報告していた。
那瑠のことがあったから、あまりここには来ないでおこうと思ったんだけどな……。
本日6本目の煙草に火をつけて、ふぅ…とため息をついた。
「あー………。先輩に触れたい………。」
「夏くん、煙草また始めちゃったのぉ?」
「透さんのせいだ。」
「もぉ〜。他人のせいにしてぇ。綾ちゃんに怒られるわよぉ〜?」
「怒ってほしいよ……。」
煙草吸って、先輩が俺を怒ってくれるなら本望だ。
先輩にやめてって言われたらすぐにやめる自信ある。
先輩に嫌われたくないもん。
だから家じゃなくて、わざわざここにきて吸ってるんだけど……。
「こんなに凹んでる夏くん、見てられないわぁ…。」
「タイムマシンが欲しい…。」
「でも夏くんと綾ちゃんなら、絶対に戻れると思うのよぉ…。だから頑張ってね、夏くん。」
「諦める気はないけどさ……。」
諦める気は一ミリもないけど、ほんとにメンタルがやばい。
しかももうすぐ出張だし…。
俺とちゅんちゅんはいいとして、先輩は蛇目さんと福岡………。
「嫌だぁーーー!!!」
「っ?!」
「ムカつく。あー、もう!麗子ママ、一番強い酒出して!」
「い、いいけど…」
出張のことを考えるだけでイライラして、俺は度数の高い酒を一気に煽った。
柳津さんが、最近の先輩はお酒の力を借りてしか寝れてないって言ってた。
俺も正直そんな感じ。
でも心配だ。
柳津さんの家で飲んでるなら、百歩譲って許す。
外で飲んでたらどうしようって、気が気じゃない。
「夏くん、飲み過ぎよぉ…。最近健康管理が疎かすぎない?」
「先輩がいない人生なんてどうでもいい……。」
「もう〜。不貞腐れないで〜?戻った時のためにちゃんと調子整えとかなきゃよぉ?」
「うー………」
酒には強いけど、酒に溺れたいこともある。
最近はいつもそんな感じで、今日も酒の力を借りて眠りについた。
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