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第43話
翌日、出勤すると先輩はまだ来ていなかった。
もちろん柳津さんも。
「おはよ〜。城崎くん、どうしたの?その大荷物。」
「あー、差し入れ…になるんですかね?」
「誰によ(笑)ていうか手料理?ダメよ、そんなの持ってきちゃ!城崎くんの彼女がうちの社内にいるのかとか、他の女性社員が色々勘繰っちゃうわよ〜?」
「あー、はは…。」
久米さんは俺の紙袋の中身を見てそう言った。
俺の恋人は社内にいますよ。
なんなら公言しちゃいたいくらいですけど。
「これは先輩に、です。」
「望月くん?」
「はい。」
「本当仲良いね、二人。手料理作ってあげる仲なんだ?」
手料理作ってあげる仲。
うん。それ以上だけど。
まだ恋人だよな…?
はっきりと振られてないし、振ってないし…。
「最近先輩細くて、心配で。」
「あー、たしかに。最近の望月くんげっそりしてるよね。よく見てるね〜?」
「先輩のこと大好きですからね。」
「あはは。誤解招きそうな言い方だよ、それは〜。というか、城崎くんも最近細くない?」
「俺は丈夫なんで。」
「なにそれ〜?あ、噂してたら望月くん来たよ。」
入り口から入ってきた先輩と柳津さんに、久米さんは「おはよー」と声をかけて席に戻っていった。
俺はじっと先輩を見つめる。
あー、ダメダメ。これじゃいつもと変わんないじゃん。
ちゃんと距離おかなきゃ…。
距離置くって何…?
「城崎、おはよ。」
「柳津さん…」
デスクに着くと、柳津さんが声をかけてくれた。
俺が待ってたのは先輩だけど、まぁそれは無理だってわかってるから仕方ない。
「土曜のことはドンマイ。あいつも頑張ろうとしてるから、許してやって。」
「はい。………あ、それより、これ先輩に渡してくれませんか?」
「ん?………いい匂い。料理?」
「はい。夕食と、パンケーキ。土曜日準備してたんですけど、先輩来なかったから…。勿体無いので、よかったら…。」
「まじか。サンキュー。綾人に渡しとく。」
「お願いします。」
柳津さんは休憩室の冷蔵庫に保存しにいった。
もう5月後半だし、腐らないように考えてくれてよかった。
「なぁ城崎。」
「なんですか?」
「綾人のこと、諦めないでくれよ?」
「何当たり前のこと言ってるんですか。フラれても、突き飛ばされても、引っ叩かれても、俺は諦めるつもりありませんよ。」
「ならよかった。」
俺の返事に、柳津さんは安心したように笑った。
今先輩の一番そばにいる柳津さんがそう言うってことは、俺本当に期待しちゃいますからね?
先輩、俺は何があっても先輩のこと諦めませんから…。
だから、必ず俺の元に戻ってきてください。
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