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第86話

先輩を突き放してしまった罪悪感から、寝つきが悪く、ほとんど眠れなかった。 先輩が出て行っている間もこんな感じだったから、若干慣れた気もする。 目が覚めたから、俺はキッチンに立ち、自分の先輩の二人分の弁当を作った。 しばらくすると先輩がリビングにきて、俺を見て小さな声で呟く。 「おはよう…。」 「おはようございます…。」 挨拶を返すだけで会話が途切れる。 あまり話すと、思ってること全部、口から飛び出てきそうだから。 沈黙した空気に耐えられなかったのか、先輩はリビングから出て行った。 一瞬息が乱れてた気がする。 駆け寄って、背中をさすってあげるべきなんだろうか? でも、俺が今行っても、余計に過呼吸を助長してしまうかもしれない。 迷って駆けつけられずにいると、しばらくして先輩はリビングに戻ってきた。 息の乱れはなくなっていて、少し安心する。 「先輩、どうぞ。」 先輩の大好きなフレンチトースト、野菜が取れるようにミニサラダ、飲み物に珈琲。 量としてもそんなに多くはないし、それに先輩の好きなものにしたから食べてくれると思ったのに。 「……ご馳走様でした。」 先輩は半分も食べずに手を合わせ、席を立とうとした。 「先輩、まだ残ってる。」 「……………」 「……美味しくなかった?」 失敗しただろうか? ちゃんと味見もして、先輩の好みの味にしたつもりだったんだけど…。 先輩は首を横に振った。 「お腹空いてない?」 「……うん。ごめん、せっかく作ってくれたのに…。」 申し訳なさそうにそう言った。 また食べられなくなってしまったんだろうか。 俺のせい…? でも、俺だって辛い。 一晩よく考えた。 考えた結果、先輩が浮気するなんて思えなかった。 先輩はやり返すような人じゃない。 だけど、俺以外の人にあんな隙だらけの姿を見せるなんて嫌だった。 俺の先輩なのに…。 キスして、抱いて、先輩は俺のものだって確認したいのに。 今の先輩にそんなことしても、拒否されるに決まってる。 拒否されたら俺がさらに傷つくだけで、お互い何もメリットはないことは分かっていた。 一緒に出勤して、先輩は蛇目とともに会議室に姿を消した。 ついていって話を盗み聞くことだってできるけど、ぐっと我慢する。 先輩のこと信じてる…。 そわそわしてると、先輩はすぐに戻ってきた。 さっきよりもスッキリしたような表情だった。 あいつに話して解決したのか? 元凶なのに? 先輩はスッキリしたようだったが、俺はそれを見てさらにモヤモヤが溜まっていった。

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