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第85話

月曜日から二人で一緒に出勤し、一緒にタイムカードを切って退社した。 先輩が残務があれば俺も残るし、俺が遅くなったら先輩が待ってくれる。 駅からマンションまで歩く時、先輩は必ず俺の手を握る。 いつも顔が強張り、繋いだ手はしっとりと汗ばんでいる。 異常に緊張しているんだと思う。 あの雨の日を思い出してしまうんだろうか? あの日の先輩は、とても脆くて危ないと思った。 だから、また先輩が恐怖心に襲われないように、俺が守らなきゃって、そう思った。 夜は一人でソファで眠る。 寂しいけど、先輩が出ていってしまったあの日々と比べたら平気だ。 同じ屋根の下に先輩がいる安心感で、ちゃんと眠れるようにもなったし。 睡眠だけじゃなくて食事も。 先輩が帰ってきて、バランスの良い食事を作るようになったから、先輩も俺も肌艶が良くなった。 お互いどれだけ不摂生だったんだよってくらい、今まで通りの食事でみるみる健康的になった。 穏やかに過ごしていたはずなのに、水曜日の夜、突然俺のスマホに一通のメールが届いた。 「なんだよ…、これ……。」 いつも通り仕事を終え、先輩と手を繋いで帰宅し、バッグを置きに自室へ来た時だった。 蛇目さんから…。 メールに添付された画像を開くと、そこにはベッドに眠る半裸の先輩が写っていた。 「は……?どういうこと…?」 浮気…? こいつと寝たのか? 俺のことは震えるほど怖いのに、こいつには体を許したのか? なんで?どうして? 黒いグチャグチャした感情が溜まっていく。 そんなわけない。 先輩が浮気するわけ……。 本人に聞くのが一番早いと思って、先輩のいるリビングに向かう。 先輩は音楽番組を見て、鼻唄を歌っていた。 「先輩、どういうことですか?」 「……?」 声が震える。 先輩は俺を振り向いて、首を傾げた。 「出張のとき…、信じてたのに……。」 「待って。何のこと?」 出張とまで教えて、分からないんだ…。 隠すの? 俺が浮気したと思ったから、その仕返し? 「自分自身に聞いてみたらどうですか?」 「なぁ、待てって!」 泣きそうだ。 顔を見られたくなくて、先輩に背を向ける。 リビングを出ようとすると、先輩に手を掴まれた。 振り返ると、先輩は本当にわからないって顔をしていた。 不安そうに、今こうして俺を掴む手だって微かに震えているくせに。 「しばらく一人にしてください…。頭冷やします。」 先輩の手を離す。 こんなに勇気を出して俺を引き留めてくれている先輩に、今の俺はどんな酷い言葉を投げるか分からないから。 その後は先輩と一切口を聞かないまま、一人で眠りについた。

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