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第88話

「ごめんっ…!ごめんなさい…。」 先輩は必死に謝る。 俺だって先輩を突き放したいわけじゃない。 本当は優しくしたい。愛したい。 「………どれくらい飲んだんですか。」 「…………」 「言えないんだ?」 情けをかけて聞いてみたけど、先輩は黙ってしまった。 この人、嘘をつけないだろうから。 なんて言うか考えてるんだろうな…。 「……一杯だけ。蛇目が注文してくれたカクテル。……度数高くって…、あんまり記憶なくて…。」 「…………」 「…俺、その後ちゃんと一人で部屋戻ったらしくて。ちゃんと部屋で寝てたし…。だから、城崎が心配するようなことないから…!」 「それ、蛇目さんに聞いたんですか?」 「え?」 「あの人の言うこと信じてるんですか?」 「何?どういうこと…?」 一杯だけで記憶ないって…。 その時点で、あいつが先輩を酔わせようとしてたことは明白だろ。 何で気づかないんだよ? どうしてそんな奴の言うこと信じられるんだよ? 先輩がなんて唆されたかは知らないけど、実際に蛇目さんに何かされない限りは、この人は納得しないんだと思う。 今、先輩の中で蛇目さんは"いい人"みたいだから。 「もういいです。」 「城崎っ…!」 「疲れたんで寝ます。先輩は作り置きしてるもの、適当に食べててください。おやすみなさい。」 俺は自室に入り、鍵を閉めた。 半分はやり返し。 もう半分は、悲しくて、悔しくて、怒ってて、でもこの気持ちを誰にぶつければいいか分からないから。 「城崎…、ごめん。ごめんなさい…。」 ドアを挟んで、先輩の声がする。 「もう飲まない…。ごめんなさい。許して……。……言い訳になるかもしれないけど、あの時嬉しかったんだ…。あいつが俺と城崎のこと肯定してくれたから…。これからは気をつけるから…。だから……。」 涙声だった。 先輩はドアの向こうで泣いているんだろう。 嫌だった。 俺の見えないところで先輩が泣くのは。 今は手の届くところに先輩がいるのに、近くで泣いてる先輩を俺が抱きしめてあげられなくてどうするんだよ。 ドアを開けて、しゃくりあげる先輩と目線を合わせる。 「先輩…、そんなとこいたら風邪引くから…。」 「城崎…っ!」 俺を見て、さらに涙を溢れさせるから。 愛しくて仕方がなくて、優しく抱きしめる。 震えながら俺に許して欲しくて泣いているかと思うと、どうしようもなく愛おしい。 「また息乱れてますよ…。ゆっくり息して…?」 「うん……」 先輩は過呼吸になりかけていて、優しく背中を摩ると少しずつ落ち着いた。

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