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プロローグ
三月半ば。校庭の桜が、わたあめのように咲き誇っている。
僕――塔矢青嗣(とうやせいじ)は私立男子高校に勤める国語教師で、佐久良龍平(さくらりゅうへい)は三年生だった。
卒業式を終えたあと、職員室へ戻ろうとする僕を佐久良が引き止めた。
ひたむきな眼差しにこもる熱。
予感はあった。かなり前から。
「……俺の気持ちは本当の本物だよ」
佐久良の言葉に、僕の心臓は大きく揺れた。
その熱を悟られないように、むしろ、ゆっくりと逃がすようにして、「茶飲み友達からなら」と返事をした。それだけの話だ。
昨年度の卒業生を送り出して三ヶ月。
佐久良とはたまに学外で会う。
佐久良は僕の「茶飲み友達」だから。
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