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僕の恋人 (R18)

 佐久良が熱い。  顔も体もくちびるも、佐久良が触れるところは全部、沸騰したように熱を帯びる。首筋を吸われたとき、思わず「んぅっ…」と声を漏らすと、吐息だけで笑う気配がした。  快楽に押し流されつつ、弱々しく僕は提案する。 「この先はソファーでしませんか……?」 「ソファー?」  佐久良が目を見開いて問い返す。 「買ったんですよ。本と書類と服で埋もれてますけど」  床に手をついて身を起こし、あそこ、と顎と目線で促した。  リビングの端っこで丘になっているのは、ひと月前に届いたソファーだ。本やタオルケットに埋もれているだけで、上にあるものを退かせば使える。  色気とはほど遠い風景だけど、恋人らしい行為にもなんとか耐えうるサイズだと思う。  買ってみたはいいが独り身の寂しさを加速させたので、埋もれるに任せて放置していたが、活用するなら今しかない。 「……俺がソファー欲しいって言ったから?」  ストレートに訊ねられて、僕は口をへの字に曲げた。 「……僕も、欲しかったので」  目を泳がせながら小さく頷いた。いちいち言わせるな、と責める色を浮かべ、上目遣いで佐久良を睨むように見つめる。 「そんなに大きくないですけど、許してくれますか?」  そう訊ねた瞬間、ふわっと体が浮き上がった。姫抱っこというやつだ。慣れない浮遊感に「ひゃっ」と掠れた悲鳴をあげた。  佐久良は僕をソファーに下ろすと、本や脱ぎ散らかした服をバッサバッサと床に落とした。お片付け名人・佐久良龍平とは思えぬ所業に、ぽかんと口を開ける。  ちらりと僕の顔を見た佐久良が早口で呟いた。 「ごめん。俺、かなり限界」  そういうや否や、ぎしりと僕の上にのしかかる。シャツの下に、するりと手が入り込んだ。  ちゅっちゅっとくちびるを啄むと同時に、佐久良の手が横腹から鳩尾、胸へと伸びていく。いたずらな指は胸の飾りを弄りだした。 「あ、そんなとこ触らなくても……き、君、おっぱい嫌いなんじゃなかったの?」 「青嗣さんのは揉みたいし吸いたいよ」  佐久良はきょとんとして、無邪気さすら浮かべた顔になる。  男のおっぱいなら許容できるなのか? 男が好きなら男のおっぱいも愛でる対象かもしれないが、そんなの後出しじゃんけんと同じじゃないか。  そんなふうに呆れていたら、僕の平たい胸についた飾りを爪の先で引っかくように刺激された。その甘ったるい感覚におののいて、思わず肩を震わせる。続けてこりこりと指で摘まれ捏ねられて、そこで飽きるかと思えば、佐久良は胸に顔を近づけて乳首を口に含んだ。ちゅくっと吸いつく音が扇情的で、足の間のものが硬度を増して反っていく。 「……んっ!」  胸は普段自分でも意識しない部位だから、しつこく刺激されるとおかしな感覚に陥る。恥ずかしいのに、やめてほしくない。 「青嗣さん……やれるとこまで、やっていい?」  瞳にやや剣呑な光を宿らせて、佐久良が問うた。僕は力なく頷く。 「君の気が済むまで……許します」 「青嗣さんの負担が大変だと思うけど」  すでに欲情しているくせにこちらを気遣う余裕を見せる佐久良は、たまらなく健気だ。 「聞いた話によると、男の股関節は固いらしいので……お手柔らかにのしかかってください」  音を鳴らさぬようにそっと唾を呑み、体を明け渡すようにソファーに身を沈めた。 「任せてください。俺、めちゃくちゃ尽くします」  形のいい目をスッと細めると、元教え子は不敵に微笑んだ。 「ま、待って、指……指、つよいっ!」  親指と人差し指で作った輪っかで足の間の器官を扱かれ、悲鳴に近い声で訴える。僕は後ろから包み込まれるようにして、佐久良の膝に乗せられていた。 「佐久良っ、もっ、もう……出そう……」 「名前」  佐久良の声が低くなり、横顔の線が鋭くなる。  肌を重ねるという行為は、つまらない世間知で取り繕った上っ面を引き剥がされて、剥き出しの自分が露わになる。 「あ、龍ちゃんって呼ぶのはどう? ほら、海斗くんみたいに……」 「こういうときは、他の男の名前、出しちゃだめ」  腹に付きそうなほど反り返った僕の屹立は、だらだらと蜜をこぼしていた。無情にもその根元をぐっと握られる。欲を発散できないもどかしさで腰が揺れた。 「ん〜っ! なんで、あっ、うぅん……っ」 「お仕置き」  佐久良が口元だけで微笑んだ。  僕の震える腰を足で挟んで押さえつけると、佐久良は自分の鞄からドラッグストアのビニール袋を取り出した。 「……なに、してるの?」 「俺はね、いつどうなってもいいように、青嗣さん家に来るたび、ジェルとゴム持参してたんだよ。知らなかったでしょ?」 「あ、あうっ……しら、知らなかったぁっ……」  だらしなく身を預けながら、緩くかぶりを振る。  そんなのまったく想像してなかった。言われても困っただろうけど、言ってほしかったとも思う。だって僕は、自分が佐久良を御していると思っていたのだから。我ながら思い上がりも甚だしい。  体に溜まった熱に悶えながら、佐久良のしれっとした顔を睨みつけた。 「……試合に勝って勝負に負けた気分です」 「俺が用意周到な性格だとか知らなくてもいいんだけどね。たぶんウザいと思うから」 「やですよ……知りたい。好きな子が自分のためにしてくれたことなんだから、知らなきゃもったいないでしょう」  くちびるを尖らせて言うと、佐久良が一瞬目を瞠った。切れ長のまなじりを薄く染めて、何かに耐えるように口を真一文字に引き結んだ。 「もー……今すぐ襲ってぐちゃぐちゃにしたい。ゆっくり慣らすから、なるべく力抜いてください」  ぐちゃぐちゃにされるのは困るので、僕は素直にこくこくと首を縦に振った。ソファーにうつ伏せにされ、腰を引き上げられ、お尻を突き出す姿勢を取らされる。  佐久良は汗ひとつ零さない涼しげな顔で、指にコンドームをつけた。 「少し冷たいと思うけど我慢してね」  いつもより少し低めの声で、僕に優しく言い聞かせる。ぬるぬるした液体をお尻に垂らされ、それを後孔の縁に塗り広げるようにして周囲の肉を解していく。縁の内側へ指が一本、侵入した。こんなところを他人に許すのは初めてだ。 「……ふっ、ん!」  ぐりぐりと拡張される動きに思わず身を固くする。佐久良がそっと背中に寄り添うように触れて、肩に口づけした。 「大丈夫、ゆっくり行くから」  早くも涙目になりながら、うんと頷く。ソファーに置いてあったクッションをぎゅうっと胸に抱え込んだ。  進んでいった指が、どうやら中の同じ一点を行きつ戻りつしながら刺激しはじめる。  なぜそこで止まるのだろうと思った瞬間、ぶるん、と体がコントロールを失ったみたいに跳ね上がった。 「あっ? あっ、あっ、あっ────!」 「青嗣さん、俺の指で上手にイケたね」  佐久良は口の端をやんわりと引き上げ、目元を欲を滲ませて、僕の上に体を重ねた。立てていた膝ががくんと折れて、ソファーにうつぶせになった。  腿に当たる硬い肉の感触は、佐久良の雄だろうか。 「挿れるよ」  尻に手を当て、割り広げるように左右へ引く。尻と尻のあわいへ自分の中心にある硬いものをぐっと押し入れた。 「んぅ〜っ……」  ぐっ、ぐちゅっ……ずぶっ。文字に起こすならば、こんな音がした。重機が湿地帯に沈むようなイメージだ。  未知の感覚と後孔への違和感で腰が逃げる。でも佐久良の大きな手が僕の腰骨を掴んで引き戻した。 「あ、や……ぁっ!」  すっかり萎えた前を容赦なく握り込まれた。涙目になっていたら、やわやわとさすられて、言葉にならない声で悶える。 「前が反応してるほうが感じやすいと思うよ」  優秀な元生徒が圧倒的に優位なのは悔しいが、頭も体も、切なく甘い感覚に痺れていく。 「うっん……あ、あっ、あんっ!」  僕の知っている優しくて穏やかで無垢なはずの青年は、慎重に丁寧に体を貪る。  横倒しの姿勢になった。口の中に佐久良の指が入る。人差し指を下の前歯の裏に軽く引っかけ、耳に口づけしながら囁いた。 「青嗣さん……声、出して……もっと俺に甘えて……」 「部屋だから、やっ……あ、ぁ、あん……!」  腰の動きは止まらない。佐久良の下の茂みが尻の表面を掠める。ぞくぞくした感覚が尻から胸まで駆け上がり、後ろで呑み込んだ佐久良の全部をきゅんと締めつけた。 「甘えるの、上手くなりましたね」  ひどく嬉しそうに言った。中をかき混ぜる水音が淫猥で、耳からも行為に溺れていく。  あんあんと声を漏らすたび、佐久良は昂ぶり、揺さぶりが激しくなった。 「りゅう、へい……あぁ……ぁっ!」  目の前がちかちかと白く光り、一瞬息を止める。 「あっぁ、あっ、あぁっ──!」  腹の下で膨らんでいた欲がぱっと弾けた。僕が達する様子を確認すると、佐久良は吐息だけで満足そうに笑った。 「青嗣さん……俺の大事な人」  腹に回った手にぐっと力が入り、さらに体を引き寄せる。そのあと、二、三度深く腰を打けると、佐久良が低く呻いた。  薄いゴム越しに熱いものが放たれるのを、体の奥でたしかに感じた。  シャワーを浴びて、のたのたとリビングへ出ていくと、佐久良がほうじ茶を淹れてくれた。 「今度、お揃いの指輪探しに行こうよ。あ、ネットで買うのもいいね。指のサイズを測るスケールを付けてくれるメーカーもあるみたい」  あんなに激しい運動をしたのに、涼しげな顔でノートパソコンを開いている。  腰をさすりながらソファの背もたれに身を預けた。 「……指輪ぁ? なんでまた急に。ていうか、君の君が元気すぎて驚愕しました」 「もう一戦やってもいいよ。青嗣さんは少し疲れてるほうが素直だね」 「失礼な……それで、指輪の話は?」 「共学になったら女子と毎日会うでしょ。青嗣さん絶対モテるから、虫除けに指輪」 「女の子を虫って言うのはやめなさい。だいたい君も毎日女子に囲まれてるくせに」 「あ、嫉妬してくれるんだ? 嬉しい。でも安心して。俺にとっては、花が青嗣さんで、女子が虫だよ」 「龍平くんは……困った子ですね」  年下の彼氏は誠実で貪欲で可愛い。  彼を見ていると僕まで素直になれる。つまらない意地や、ひねくれた心が、むにむにとほぐされていく。  今日、茶飲み友達が恋人になりました。

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