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Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は34
「ブレイラ、それ以上は考えるな。まだ決まったわけじゃない」
「ハウスト……。……そうですね、まだ決まったわけじゃありません。もしそうなら、それはあまりにも」
言葉が続きませんでした。
星の終焉。
もし星の終焉が訪れるなら、それはこの星に暮らすすべての強制終了。
すべてが消えて、すべてが途絶えて、すべてが潰えて、もうそこにはなにも残らないのです。それは想像を絶するほど無情で残酷な強制終了。
もしそれが現実に起こるというなら四界の平穏は一変し、混乱の坩堝に陥るでしょう。
私は部屋にいるイスラ、ゼロス、クロードの三人を見つめました。
この空の下には数えきれないほどの魔族、精霊族、人間、植物、動物、生きとし生けるものの営みがあって、そのすべてを守るために四界の王は初代からレオノーラの加護という規格外の力を受け継いでいるのです。
まだ決まったわけじゃない。決まったわけじゃないけれど、この三人は困難な時代の王になるかもしれません……。
そして次に窓から見える空を見上げました。
どこまでも続く青い空。強力な結界で世界は四つに分かたれているけれど、空は一つ。すべての世界と繋がっている。それは十万年前から変わらないもの、不変の空でした。
ふいに、ぎゅっと手を握られました。
「ブレイラ、どうしたんですか?」
「クロード……」
クロードが心配そうに私を見上げていました。
私の手を両手で握って、大きな黒い瞳で私を見つめています。
そんなクロードに私は目を細めて口元を微かに緩めました。
いけませんね、無意識に顔が強張っていたようです。まだ五歳のクロードを不安にさせてしまうほどに。
「ごめんなさい、大丈夫です。なんでもありませんよ」
「そうなんですか?」
「そうなんです。それよりおやつにしましょうか。せっかくハウストたちがおやつまでに帰ってきてくれたんですから」
「はい! わたしもおてつだいします!」
クロードがはりきってお手伝いしてくれます。
二人で紅茶を淹れているとゼロスが来てくれます。
「僕も手伝うよ」
「ありがとうございます。ではカップを温めてください」
「うん、まかせて」
ゼロスが慣れた手つきで手伝ってくれます。
あなたは幼い頃からよくお手伝いをしたがってくれる子でしたね。
「ブレイラ」
ゼロスがカップを温めながら私に声をかけてきます。
「どうしました?」
「大丈夫だからね」
ゼロスが言いました。
ハッとして見るとゼロスがまっすぐ私を見つめています。
「なにがあってもブレイラは僕の味方でしょ? だから、なにがあっても大丈夫なんだからね」
「ゼロス、あなたはっ……」
私は堪らなくなりました。
ハウストとイスラを振り返ると、二人も私を見つめて頷いてくれました。
不思議ですね、たったそれだけのことなのに心が強くなるのです。
「そうですね。なにがあっても私はハウストとイスラとゼロスとクロードの味方です。それだけはなにがあっても変わりません」
「うん、僕もブレイラが大好きだよ。なにがあっても変わらない」
「わたしもです!」
ゼロスとクロードが嬉しそうな笑顔を浮かべてくれました。
ハウストとイスラも穏やかに笑ってくれます。
ハウストと結ばれて、イスラとゼロスとクロードが私たちの子どもになってくれて、これ以上の幸せは私にはありません。
この穏やかな日々がこれからも続くことを今は信じていました。
終わり
『三兄弟のママは結婚五年後も魔王様と』が完結しました。
読んでくれてありがとうございました!
神話から三兄弟が成長し、イスラ23歳、ゼロス15歳、クロード5歳になりました。
成長した三人を書けてよかったです。
イスラはシリーズ一作目くらいのハウストまで育ちました。身長も体格もハウストと肩を並べています。
あの甘えん坊で泣き虫だったゼロスはイスラと共闘しても遜色なく戦えるまでになりました。
クロードは五歳児です。また覚醒してないので、イスラやゼロスの幼児期にくらべるとちょっと劣ってしまいます。でも本人はめげずに一生懸命追いかけてます。
しかもクロード本人は自分はクール系だと思ってますが、二人のにーさまに構われて育った無自覚甘えん坊ですね。
三歳ゼロスが「ぼく、あまえんぼうさんなの!」と自覚ありの甘えん坊なら、クロードは無自覚の甘えん坊(笑)
『三兄弟のママは結婚五年後も魔王様と』は電子書籍や同人誌には、書き下ろしの番外編を何本か入れる予定ですのでよろしくお願いします。
内容は日常コメディとか明るい話です。
次作は長編なので、ここに明るい番外編を入れておきたくて。
『三兄弟のママは神話を魔王様と』がもう少しでkindleで配信できると思います。
15歳イスラと3歳ゼロスと赤ちゃんクロードの書き下ろしたっぷりですので、ぜひ読んでくれると嬉しいです!
またお知らせいたしますね。
次作はシリーズ完結編です。
タイトルは『三兄弟のママは星語りを魔王様と』です。
完結編まで無事にたどり着いたのは、こうして応援してくださる方々のおかげです。本当にありがとうございます!読んでくれて嬉しいです!!
準備ができしだい連載を開始します。
連載を開始したらお知らせします!
完結編もぜひお付き合いください!
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