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「……、っあ~~~~、腰痛い……」 「イリヤ、なんかおじさんみたいなこと言ってる」 「うるさい!アンタのせいよ!!馬鹿!」  数時間後、目を覚ました彼がシャワーを浴びたいというものだから浴室へと連れていき、覚束無い足元で歩く彼を抱きかかえ、お湯を張った浴槽へと誘った。大の大人2人が足を伸ばして入れるかなり広めの浴槽に、2人で向かい合って身体を浸からせた。  激しい性行為をした自覚はなかったのだが、腰が痛いと唸って其所を擦る彼の姿を見ると、やりすぎてしまったかと少しばかり反省した。  頬を膨らませ、ふいと他所を向く彼があまりにも可愛らしいものだからつい揶揄いたくなり、彼の両頬を掴んで此方を向かせ、冗談交じりに言葉を投げかけた。 「それはイリヤが可愛いのが悪いんじゃない?」 「は?毎日悪いってこと?」 「うん、毎日悪い」  彼は此方をじっと見つめ、冗談なのか本気なのか分からない返答をする。恐らく前者だったようだが、此方の気持ちとしては後者なので、鸚鵡返しに返答すれば頬をみるみる紅潮させ、目線を逸らした。 「何それ、恥ずかしいんだけど」 「だって可愛いもん、ずっと可愛い」 「……、アンタのせいで乳首も痛いのよ……」 「変な話の逸らし方しないでよ」 「何よ、文句でもある?」 「……ないけどさ、あ!」  彼は依然、頬を紅潮させたまま胸を覆うように両手を被せ、ふいとそっぽを向いた。  そういえば、と以前から温めていたある提案をふと思い出し、彼へとそのまま投げ掛ける。 「俺……イリヤに言いたいことがあって」 「何よ」 「俺と一緒に暮らそ?」 「はぁ?」  此方の提案に対し、彼は表情を変えず頓狂な声を上げた。  確かに、今の今まで1度もこの件について話した事はなかったが、多忙のあまり彼に会えない時間が増え続けている事がどうしても耐えられず、ついこんな状況で口走ってしまう。更に、言った者勝ちと言わんばかりに、責め立てるように更に言葉を続けた。 「だってさ……俺の家に住んだらさ、いつでもえっちできるよ?俺の事考えてムラムラしなくても、俺ずっといるし……イリヤの気が済むまで毎日セックスしよ?そして……快楽漬けにして俺がいなきゃ生きていけないようにしてあげるから……」 「、れお……!?」 「……イリヤ……俺と一緒に暮らそ……てか暮らすって言うまで帰さない……」  目を丸くし、言葉を失う彼の首に腕を回し、強く抱き締める。ゆらゆら揺れる、水面に浮かぶ彼の銀糸を思わせる髪に指を搦め、更に背中を此方に寄せれば、眉根を顰めて少しばかり枯れている低い声を荒げた。 「それは暮らすっていうか監禁じゃないの!?」 「監禁でもいい……」 「は!?ふざけてんじゃないわよ!」 「本気……」  此方側を睨みつけて、腕の中から逃れようとする彼の身体をさらに強く抱き締めると、抵抗をするのを諦めたようで、彼ははあと深い溜息を吐いた。 「もう……分かったわよ」 「えっ!!」  思いもよらぬ彼の肯定の返事に、喜びと驚きで思わず彼の身体から腕を解く。しかし、彼の口から出てきた言葉は想定外のものだった。 「……、近いうち、うちに連れてくから」 「えっ……えっ?」 「それでいいでしょ?許可は自分で取るのよ」 「……うそ?」 「嘘じゃないわよ!何なのよアンタ!恋人の家族に会えないって言うの!?」 「いや、すごい真面目だな~って……結婚するみたい」 「アタシがいつ真面目じゃなかったのよ!!」 「わ、わかったから、怒らないでって」  彼の怒り混じりの返答に、思わず苦笑して更に返すと、気に触ったのか浴槽の水をあらん限りの力で掛けられる。お互いの前髪や顔がびしょびしょに濡れてしまい、思わず互いに笑いが漏れてしまう。  一頻り笑った後で、浴槽の縁に両肘を着き、此方を見つめて口角を吊り上げた彼は、更に驚くべき一言を発したのだった。 「……、アタシと結婚、しないの?」  その発言に、つい数秒間思考が止まってしまう。彼の告げた言葉を何度も反芻し、漸く理解をした所で、返事よりも先に身体が動いてしまっていた。先程と同じように彼の身体をめいっぱい力を込めて抱き締め、喜びのあまり震える声を絞り出す。 「す、する……!!俺、イリヤと結婚する!!」 「っうるさい!馬鹿!!声でかいのよ!!」  僕は最大の試練と、最高の幸福を与えられてしまったようだ。 END

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