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山狼族の集落 アスミイ2

 「けど、けど・・・あたしなら子どもも産めるし・・・魔力だってきっと遺伝するわ。その子が狼の精霊と契約出来るかもしれない・・・そうよ・・・それならその黒猫を認めてあげるから、あたしに子どもを授けてよ。愛してくれなくてもいい。お願い、長のあなたが山狼族の未来を奪わないで・・・」 泣きながらそう訴えるシーナさん。それを擁護するように長老のタイショーさんが言葉を繋ぐ。 「のう、ショーリュー。番を諦めろとは言わん。だが、ケンショーがシーナと子を作る事を前向きに考えてはもらえんか?」 シーナさんとタイショーさんの気持ちも分かる。それだけ山狼族が大切なんだよな。けど・・・ 「シーナ、お前と無理矢理子どもを作ったとしても、その子が狼の精霊と契約出来る保証はない。例え魔力が膨大でも、愛もなく機械的に作った子どもを狼の精霊が見初めるか?山がそんな子どもが生まれる事を喜ぶと思うのか?」 だよね。世襲制ならまだ話は分かるけど、山狼族はそうじゃないみたいだし。 魔族の国も世襲制ではない。魔王様は魔力が多く、猫科動物の上位種族の精霊と契約している者の中から選ばれる。魔力の量は遺伝によるところも大きいから、ここ何代かは同じ血縁から選ばれているけれど。 山狼族も同じだ。山に愛され、狼の精霊と契約した者が長となる。 だから、そんな人為的に作られた子どもが狼と契約出来る可能性は低いだろう。 自然を愛する山狼族が番以外と交わるなんて、山が喜ぶはずがない。 ・・・それに何よりオレがイヤだ・・・ショーリューの気持ちが俺の中でそう主張し、それに同意した俺の気持ちもショーリューの中へと流れ込んでいく・・・そう、俺だってイヤだよ・・・ 「そんなの分からない!母親のあたしが愛情を持って育てれば・・・それにケンショーだって、長として山狼族の子どもを無下にしないでしょ?!」 更に声が大きくなっていくシーナさん。 「いや、だからな・・・はっきり言おう。ケンショーはシーナ相手には勃たない」 そしてその後に言葉にしなかったショーリューの気持ちがなだれ込んで来た・・・オレはこの先一生お前にしか勃たない・・・う、うん。ありがとう? ショーリューの言葉に号泣したシーナさんが席を立ち、一つの天幕へと走って行った。それを追いかけていくのはゴールデンレトリバー。そしてジャッカルとトシさん。 タイショーさんもため息をつきながら、コヨーテと共に別の天幕へと帰って行く。  後に残ったのは、俺とショーリュー、そしてシーアさんとヨシさんだ。 「初めましてアスミイちゃん。わたしはシーア。この子はラブラドールレトリバーのアン。シーナとは双子なのぉ。シーナがごめんなさいねぇ。あの子は長が大好きなのもあるけど、長老に洗脳され気味なのよぉ。 『山狼族を絶滅させない為に次代の長、つまり狼の精霊と契約出来る子を産む』って、長への気持ちを山狼族の未来を憂う気持ちにすり替えて正当化しようとしてるっていうかぁ・・・拗れてちょっとおかしな方向にいってるのぉ。 けど、長の、ショーリューの言う通り無理矢理作った子が山に、狼に選ばれるわけないのにねぇ。 それに勃たないのなら仕方がないわぁ。アスミイちゃん、いえ、アスミちゃん相手ならいくらでも・・・でしょうに。うふふ」 ニヤニヤと笑いながら俺とショーリューを見るシーアさん・・・目が、目が怖いです! 「まぁ、わたしはアスミイちゃんを歓迎するわぁ。もちろんアスミちゃんとミイちゃんになってもねぇ。だってアスミイちゃん可愛いし、銀狼×黒猫なんて・・・しかもいきなり完全憑依で繋がって登場・・・白銀の翼と漆黒の翼がか絡み合って・・・あぁ尊いわぁ・・・うふふ」 ・・・シーアさんはやっぱりシーアさんだったよ。 「ありがとうございます。俺、というかアスミは、ケンショーさんに会う前から山狼族を探して山に入ってたんです。 そこで山の怖さも優しさも色々知りました。だから、山を信仰する山狼族の気持ちも分かるつもりです。 番を大事にするのも自然の摂理。だから俺はショーリューを受け入れたい。ショーリューが大事にしている山狼族にも受け入れられたい・・・」 ショーリューの同調がキツくなる。ダメだ、これ以上俺の心に踏み込まれたら、もっともっと欲しくなる・・・

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