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番外編 元祖破天荒と新破天荒 3
リューを先頭に、山の獣道を駆けて行く五匹の精霊を見送った俺たちも、出発する事になった。
「勝手に精霊を行かせたが、心配だったらすまねぇな。狼や犬は群れで山を走りたがるんだ。ミイの言う通り飛んでる方が楽だと思うんだが」
ケンショーさんがそう言うと、カグラが答えた。
「猫科動物だって同じよ。すぐに木に登りたがる子も多いし。それにミミとキルはリューに興味津々だから、願ったり叶ったりじゃない?まっ、何かあればすぐにあたしの下に飛んで来るから大丈夫」
「だよな~ライオンとしては狼の強さが気になって仕方ねぇってとこか」
「そりゃそうよ!猫科動物の中じゃ虎かジャガー以外は相手にならないもん。
かと言ってドラゴン相手ってなると、魔力勝負にするか、完全憑依しないと部が悪いし。動物の姿で同レベルの別種族の精霊なんて、ミミもキルも興味しかないわよ。
ねえ、この群れに狼は長の一匹だけなのよね?ちょっと残念。あたし、群れをなしてる狼の精霊が見たくて山狼族を探してたんだ~結局、ドラゴン退治からの伝説のドラゴン探しを優先しちゃったけどね~」
めちゃくちゃ軽く言ってるけど、カグラはこのノリで魔族の国の近くにあり冷戦状態だったドラゴンの谷を制圧した。
そして、誰も存在すら知らなかった、伝説のドラゴンを契約精霊に持つドラゴン王族と友好条約を結んだんだ。そのドラゴン王族が住む最南の島は本当に遠く、本来なら魔族と関わる事なんてなかったはずなのに。
ルイが俺に囁く。
「前にも言ったかもしれないけど、ジュン様もカグラも好き勝手に生きてるだけで、すべてがこの調子で魔族の国が発展して行くんだ。で、後始末は全部魔王様とシグ様、そしてショウと僕」
う、うん。よく分かったよ。真面目に国を治めている魔王様やシグ様、次代魔王候補のショウ、ルイからしたら、頭が痛い事が多いんだろう。それでも結果だけを見たら文句の付けようのない功績だ。
「けど俺はカグラに感謝してるぜ?なんせカグラのおかげでリュウセイに会えたんだから。まぁ、ルイや俺が前世でそう設定したからって言えばそれまでだけどさ。
何て言うか、そうじゃなくてもカグラは最南の島を探し当てた気がするし」
トワの言葉にリュウセイも頷く。
「あぁ、カグラ様が最南の島に来た時の衝撃はすごかった。オレたちの世界が変わった瞬間だよ。カグラ様のおかげで王子二人と王女が一人、そしてオレも番に出会えたんだ。
それまではドラゴン族以外に番がいるなんて考えた事もなかったからな。
本当に感謝しかない」
「なるほどぉ。カグラ様のおかげでドラゴン×オオヤマネコなんて奇跡のカプが存在するのねぇ。ありがたいわぁ。その王子様二人のお相手はどんな方なのかしらぁ?うふふ・・・」
俺たち四人の話を聞いていたシーアさんがぶつぶつ言っている。トワが前世とか言っちゃった事には見事にスルー。ありがたいけどそれでいいのっ?
シーナさんはやっぱりリンクが気になるようで、チラチラ見ていたらリンクの方からすり寄って来て大喜び。リンク、サービスしてくれてありがとう!
その後もそれぞれ自由に喋りながら、ゆっくり山道を進んで行く。
そして・・・
「「「うわぁ!!!」」」
トワとルイ、それにカグラの声まで揃った。リュウセイは息を呑んで目の前の光景に見入っている。
少し開けたその場所の奥に見えるのは、ゴツゴツとした岩肌の間から叩きつけるように流れ落ちる滝。
鬱蒼とした樹木の隙間から溢れる木漏れ日に、滝つぼに流れ落ちる水によって辺りに舞う水霧が反射し、キラキラと美しい。
「これは・・・すげぇな・・・」
ジュン様も目を見開きしばらく滝に見入った後、絞り出すように言った。
「この場所に山狼族以外が来たのは、おそらく初めてだ。普段はここにも隠蔽魔法をかけてあるからな。
ようこそ、オレたちの聖域の麓へ」
「聖域の麓?」
「あぁ。山狼族が犬科動物の精霊と契約する、特別な場所が山にあるってのは知ってるだろ?
この滝は二の滝。更に奥にある一の滝がその場所なんだ。流石にそこには案内出来ねぇが、二の滝ならってな。
アスミの友だちだから大サービスしてやろうと思ったんだが、まさか前魔王の兄ちゃんと嬢ちゃんが来るとは予定外だったぜ?」
「あら、あたしはアスミとはもう友だちよ?」
カグラ・・・何かもうそれでいいよ。反論するだけ無駄だろうし。
精霊たちはすでに到着しており、好き勝手に滝の周りで遊んでいる。ヤヤは滝つぼに潜っているのか?尻尾の先が水面から出ているぞ。
その光景がまたなんとも神秘的で・・・
清浄な空気と相まって、ここが精霊界だと言っても信じてしまうくらいだ。
トワもルイもリュウセイもまだ滝を見つめたまま動かない。
俺も初めてこの場所に来た時は感動で声も出なかったもんな。
百メートルを超える高さから轟音をたてて流れ落ちるその荘厳な姿は、山そのもののように見えて・・・普通の魔族の俺を受け入れてくれた懐の深さに感謝して、俺は、ごく自然に祈りを捧げたんだ。
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