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『ーーっ、』 明確な拒絶と、譲らない瞳。 でも、その中には申し訳なさが滲み出ていて……心臓がぎゅっとなる。 『奥さんは、どんな人ですか?』 『…強い人、かな。 我々と違い何処にでもいるβ(ベータ)の男性で、年は私と同じ。人一倍芯がある人でね、私が運命の番と巡り会えてないのを気遣ってか、いつその時がきてもいいよう…いつも別れの準備をしている』 『っ、そんな……』 『ふふ。連れ添ってもう随分長いのにまだ言われるんだ。 〝私は貴方の運命ではないから、いつかその時が来たらその方を大切にしてください〟と。 そんな妻を…私はどうしても……っ、離すことが、出来なくて……』 (ーー嗚呼) 人生経験の差。 生きてきた、その年の差。 この目の前の人は運命を前にしてこんなにも悩みながら言葉を選び、伝えてくれているのに、僕はなんて子どもなんだろう? (きっと、素敵な奥さんなんだ) 心優しくて穏やかで、強くて、いつ来るかわからないその時といつも戦ってて……僕なんかとは大違い。 ーー〝運命〟なんて言葉に踊らされてて、恥ずかしい。 『……貴方は、今 幸せですか?』 『あぁ勿論。毎日が幸せだ。本当に…幸せなんだ』 『そ、かぁ……』 体の震えも大分収まり、やっと冷静になってくる。 〝君を 幸せにすることができない〟 (じゃぁ、僕はどうすればいいの?) 運命の番に捨てられた可哀想なΩ(オメガ)? 捨てられてもなお、目の前の人と一緒にいることを望む? その今の幸せを奪ってまで? そんな…そんなこと、できない……したくは、ない。 なら、これから先の長い人生 僕は一体 誰と歩めばーー 『だからね、』 カツンと一歩距離を縮められ慌てて前を見ると、僕と目線を同じにするよう膝を折る優しい顔。 『君にも、たくさん 幸せになってほしいんだ』

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