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『君は、泣きたくなるくらい美しい空を見たことがあるかい?』
例えば、驚くほど熱いマグマや人を飲み込んでしまいそうな深い山、水平線がわからないくらいに青々とした海、人が作ったとは思えないほど綺麗な造形物の数々……
『君を探しあてもなくこの世界を彷徨って、私はいくつもの素晴らしい景色を見てきた。
〝嗚呼、きっとこれは私の番が見せてくれているんだ〟と思ったよ』
君を探していなければ、出会えなかった景色。
君を探していなければ、出会えなかった人や食べ物。
『君は、まだ若い。きっとこれから先様々なものと出会い大きく成長する。そんな君の未来を……この老いぼれで縛り付けたくはないんだ』
『…そんなの、ただのあなたの考えですよね? 僕の未来は僕が決めるし、そんな綺麗なもの見るよりずっとあなたといた方が幸せだ!
大体、僕は運命を前にしてそんなに強くなれなi』
『じゃぁ、強くなりなさい』
『っ! あなたは、僕を前にしてなんとも思わないんですか!?』
『ーーそう、見えるかい?』
『ぇ、』
ハッと見上げた顔には汗が浮かんでいて、シルクハットを持つ手も小刻みに震えていた。
『本当はね、今にも噛みついてしまいそうなんだよ。あぁ全く、自分の運命を前にするとこんなにも脆いものなのか。
……ねぇ、私の運命。〝幸せ〟とは、なんだろうか』
(幸せ、とは?)
年上だからか、おじさんだからか。
さっきからどうも謎々が好きなようで。
(でも、そうだな…幸せ……)
幸せ……僕にとっての幸せ、とはーー
『心が、通じ合うこと……?』
『うん、そうだな。私もそう思う』
明確な答えなんて、無い。
幸せの形なんて人それぞれ。
『だがね? 私は、幸せとは〝挨拶ができること〟だと思うんだ』
例えば、朝起きて真っ先に交わしあう「おはよう」。
食事をする前の「いただきます」食べた後の「ごちそうさま」。
何かをしてもらった時の「ありがとう」。
逆に何かをしてしまった時の「ごめんなさい」「大丈夫?」。
ーーそして、大好きという意味の「愛してる」。
『挨拶なんて考えれば考えるほど無限にある。
それを毎日伝えることができることを、私は〝幸せ〟だと思っている。これは、君が言うように心が通じ合っていないとできないことだね』
だから詰まる処要するに、君と私の考えは同じということだ。
『私はそれを、妻にあげている。妻と心を通わせ挨拶を交わしあっている。私はそれに優先順位を付けたくはないし、今後誰かを2番や3番というように手元に置く気もさらさら無い。だから……
ーー私は、君を〝幸せ〟にすることが できないんだ』
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