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「あっ」
「……なに」
放課後。
山田先生と話して下校時刻ギリギリに教室へ戻ると、一ノ瀬がまだ残っていた。
(さいっあく)
曲聴いてるのがバレた日から徹底的に一ノ瀬を避けまくっていて、最近はもうゲームどころじゃなくなってる。
上手い言い訳が思いつかなくて、問い詰められるのが嫌で、朝の登校も休み時間も放課後も全部時間をずらしたりシカトしたり……
逃げるのは嫌いだけど、こればっかりはどうしようもない。
(なのに、なんでこんな時間までいるの?)
まさか待ってた? 嘘でしょやめてよ。
すぐに帰りたいのに、置いてた鞄を一ノ瀬が持ってて動けない。
「あの、さ」
「…………っ」
緊張漂う夕暮れ時の教室で、ポツリと声が響く。
「杠葉って遊園地とか興味ある?」
「……はぁ? 遊園地?」
出てきた言葉は、予想の遥か上。
「いつもの奴らがチケットくれてさ、一緒にどうかなって」
「そいつらと?」
「いや、俺とふたりでなんだけど……俺他に行く奴いないし、杠葉さえよければ」
見せられたのは、有名なテーマパークのもの。
「くれた」っていうのは、もしかしてこの前のお詫び?
あの曲の件で僕たちが気まずくなってしまったから、気を利かせて的な?
そう言えば、タイムリミットの3ヶ月までもう少し。
だからここで一気に距離縮めさせてやろうって魂胆?
「日にちは、もし空いてたら来週の日曜とか」
(ーー嗚呼、なるほど)
その日は、ゲームラストの日だ。
最後の最後にテーマパーク周って、いい感じになったところで告白。
一ノ瀬にエスコートされて楽しんだ後に告げられたら、そりゃ完璧すぎて普通はころっといっちゃうだろうね。
まぁでも、今回は僕だったってのが運の尽き?
(…けど、テーマパーク……)
一ノ瀬と、ふたりでーー
「……いいよ、行ってやる」
「っ、まじ!?」
「同じこと何度も言わないし。さっさとチケット頂戴」
驚いてる手から奪うように1枚取り、教室を出ていく。
「ぁ、待てよ鞄!」
「そのまま持ってくれるんでしょ? 何してんの? 帰るよ」
「ーーっ、おう!」
(腹立つ)
ねぇ、なんなの本当。
あんなに気まずいと思ってたのに、もう過ぎた事のようにそれには触れず話してきて、また一気に元の距離感に戻して。
まるで僕ばっかがぐるぐるしてたみたいじゃん、最悪。
どうやったらそんな能天気な頭になれるわけ? こんな僕にもいっつもいっつも楽しそうに話しかけてきてさ?
いっつも いっつもーー
「……っ」
後少しで、この日々も終わる。
(あぁ、やっと清々する)
しかもテーマパークで盛大に振れるとか最高でしょ。
僕をターゲットにした奴らにも仕返しできるし、百選連勝の一ノ瀬が最後にどんな顔するのかも見ものだし。
もはや一石何鳥ってレベル? 凄いよ相当ツイてる。
……だから
(胸が痛いなんて、絶対に嘘だっ)
ちょっと、しっかりしてよ僕。
なんでこんな泣きそうになってるの?
来週の日曜が楽しみなんて、嘘だ。
あいつらがお膳立てしたから仕方なくなんだろうけど、でも誘ってくれて嬉しいなんて嘘だ。
最後に思い出が欲しいなんて…この3ヶ月がもっともっと続けばいいのになんて……
ーーそんなものは、全部 嘘だ。
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