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「杠葉、ちょっとこっち」
「はっ?」
ショーの中盤くらい。
突然、グイッと腕を引かれた。
「ぇ、まだ見てるんだけど!」
「いいからこっち来て」
人だかりをかき分け進む一ノ瀬に、引っ張られるようにしてついて行く。
漸くなんとか集中して見れてたのに!
ってかもう暗くて足元も見えないのになに急いでんの?
人にぶつかるじゃん、馬鹿なのか!?
まだ、色々言いたいことがある。
なのに繋がれた手が熱くて…大きくて……
(っ、くそ)
ぶわっと体温が上がるのを感じながら、一緒に走るしかなかった。
***
「はぁ……は、まだ終わってないかっ?」
「なに、が?」
「前見て」
「ーーっ、わぁ……!」
階段を駆け上がったその先の場所は、キラキラ輝くショーの光と楽しそうな観客の声が柔らかく響き渡っていた。
(す、ごい)
近くで楽しむのもいいけど、離れた高い所から眺めるのもまた違った雰囲気。
「いいだろここ。前来た時見つけてさ、俺のお気に入り」
「……そんなの、僕に教えていいわけ?」
「いいんだよ。杠葉なら」
幸い、ここに僕ら以外の人はいなくて。
(ぁ、来る)
夜の涼しい風が走ってきた頬を撫で、一気に緊張が体を駆け巡った。
「なぁ、今日楽しかった?」
「……一ノ瀬、は?」
「ふはっ、何だよ俺が質問してんのに。
俺は楽しかったよ。やっぱこういうとこ来ると非日常感半端ないよな。杠葉と周んのも新鮮だったし。
杠葉、今日なんか様子おかしかったから大丈夫かなって思ってたけど平気? やっぱ調子悪かったか?」
「別に、大丈夫だから」
なにその余裕。これから傷つけるくせに僕の心配しないでよ。
一ノ瀬のそういうところ、すごく残酷だ。本当嫌い。
(言うならさっさと言えよ)
ドクドク煩い心臓を、服の上からぎゅぅっと押さえつける。
心の準備なんて、とうにできてるんだ。
だからさっさと言ってくれていい。
それを僕がバッサリ切り捨てて、笑ってやって。
それからーー
「あの、さ」
遠くから響く賑やかな音。
それを聞きながら、浅くなる呼吸をなんとか整える。
「杠葉、俺と初めて会った入学式のこと…覚えてる?」
「………ぇ?」
(う、そ)
〝入学式〟って、まさか。
「あの時話してから、俺ずっと杠葉を探してたんだ」
入学式が終わったのに、中々その場を離れない奴がいた。
『なにやってんの? 帰れって先生言ってるけど』
『っ、あぁ悪い。もう行くから』
『緊張? 変な顔してる』
『そう、だな……なんか、また始まんのかぁって』
やっと中学校が3年間終わったのに、次は高校で。
確かに此処へは選んで来た。でも、果たして選んだのは本当に自分だっただろうか?
先生や親や周りの意見もあってまた3年間が始まって。
『それに怖くなったってか、あぁ長いなって』
『わかる。僕も同じこと考えてた』
『え、まじ!?』
『じゃなきゃお前みたいに残ってないでしょ』
確かに、怖い。
やっとあの変な〝クラス〟という社会から抜け出せたのに、また入らないといけなくて。
……けど。
『ここまで来なきゃ会えなかった奴らに会えるのは、ちょっと楽しみじゃない?』
『っ、』
中学とはまた違ったメンツ。
きっと新しい出会いばかりのはず。
正直、僕の中学時代は最悪だった。だからまだこの性格なんだけど。
ーーでも、もしかしたら次は…何か変化があるかもしれない。
(って、無かったら無かったで最悪なんだけどね)
寧ろ悪化したらウケる、もう笑いどころじゃない。
『まぁ、もう入学式まで出たんだし腹括れば? 頑張ってみなよ』
『〝出会い〟か……うん、そうだな』
ポツリと呟かれ、目の前の奴が突然立ち上がる。
『サンキュ!なんか元気出たわ。暗い話してごめん』
『別に。ってか普通に僕より友だちできると思うから大丈夫だよ。気楽にやれば?』
『はぁ? なんだそれ。お前人付き合い苦手なの?』
『苦手というか……』
(話したいけど避けられるし、僕も僕で素直じゃないし)
『ふーん、分かった。ならさ』
『?』
頭ひとつ高い顔を見上げると、そいつは綺麗に笑っていた。
『俺が、お前の高校で仲良くなったやつ一号な!』
『ーーっ!』
『それでお前は俺の高校で仲良いやつ一号。おっけ?』
『……ははっ、馬鹿じゃないの?』
仲良いやつ一号とかガキかよ。
多分こいつなりに僕を元気づけようと言っただけ。
けど……たったそれだけでびっくりするくらい心がギュゥッとなって、泣きそうになってしまって。
『先、帰るから』と足早に去ったんだ。
あんなこと言ってもらえたのは初めてで、後から調べて一ノ瀬を好きになって。
あの時5分も話してなかったし、もう忘れてるだろうと思ってた。
ーーなのに、
「俺あの時すごい勇気もらえてさ、あいつと同じクラスにならないかなって思ってたんだ。
だから2年のクラス替えで杠葉と被った時、本当に嬉しかった」
まさか覚えているなんて。
(そん、な…そんなの、絶対あるわけが……)
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