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「外回り終わりました」
「お疲れ様です!」「おかえりなさい〜」
デスクに座り、ホッと息を吐いた。
(前々から準備しといて良かった……)
今月の売り上げがやばい。
先月先々月から育ててた分が取れたからいいものの、単月で勝負してたらまじで死んでた。
また来月に向けて新規取っていかなきゃいけないのに、全然仕事に身が入らない……
(それもこれも、全部あいつのせいだ)
この前あった合コン。
結局、一ノ瀬と外で少し話した後、またあの場に戻って一次会で早々に抜けて終わった。
けど、一ノ瀬に言われたことがこうして今も頭の中をグルグルしてる。
(「俺は本当だった」って、どういう意味なんだ?)
転校前のあれは、ゲームだったはずだ。
放課後教室で話してるのを聞いたから間違いない。
なのに、本当? そういうルールだったから告白してきただけだろ?
それで、告白した次の日に呼び出してネタバレする予定で……俺はそれが聞きたくなくて結局先に転入先へ出発したんだけど。
でも、これがゲームの全てだったはず。
なのに何だ?
「前のお前が好きだった」って、どういうこと?
その好きはLoveではなくてFavorite的な?
(聞きたかったのに早々切り上げて店戻るし、益々意味がわからない。っというか過去形……)
一ノ瀬は、今より前の俺の方が良かったのだろうか。
物好きにもほどがあるだろ。自分で言うのもなんだけどあんな性格地雷の何処がいいんだか……
……けど、
(「〝鈴木〟って呼びたくない」っていうのは、少し嬉しかったり……)
『やっぱり俺にとってお前は特別だから、俺が知ってる名前で呼びたい』
店に戻る直前、確認のためか再度言われた言葉。
赤くなってる顔を見られたくなくて『もうどうとでも呼べよ』と言ったけど。
俺の下の名前、覚えててくれたんだ。
〝杠葉〟よりも〝唯純〟って呼びたかったって、なに?
『特別』って、どういう意味……?
もしかして一ノ瀬も、俺と同じ気持ちで高校時代過ごしてたってこtーー
(あーやめやめ、ストップ)
〝もしかして〟は浮かべんなって。
それで違ってたら後がキツいし、もう傷付きたくはないだろ。
また思考が沼にハマるとこだった、まだ会社だって…ったく。
「はぁぁ…本当、なんなんだよ……」
「あ、鈴木さん帰られてたんですね!お疲れ様です!
一緒にお昼どうですか?」
「お疲れ新坂、もうそんな時間か」
「今日は弁当屋が売りに来る日ですし、買いに行きましょ〜」
底抜けに明るい声に、俺も財布片手に立ち上がる。
「あ、そうだ鈴木さん。遊園地って興味あります?」
「…………は?」
(今、なんて?)
瞠目した俺の前に、ヒラリと見せられたチケット。
「この前の合コン後、いい感じになった子がいるんすよ!
今度その子とデートする予定なんですけど、折角だからこの前のメンバー少し誘って数人で行った方が楽しいんじゃないかって話になって!
それで、向こうの子たちに〝鈴木さん連れてきて欲しい〟って言われてるんすよね〜どうですか?
来週の日曜なんですけど、予定空いてます?」
『あのさ、遊園地って興味ある?
いつもの奴らがチケットくれてさ、一緒にどうかなって。日にちは、もし空いてたら来週の日曜とか』
「……向こうは、一ノ瀬も来んの?」
「一ノ瀬……あぁ鈴木さんの幼馴染!確か来ますよ!
あの人も人気でしたし、こっちの女の子たちが会いたいって言ってるの伝えてもらいましたから」
チケットに載ってるのは、あの某有名テーマパーク。
(行き先も言われ方も同じって、なんなの)
丁度それで悩んでたのに、こんな偶然。
頭の中に、あの日の下校時間ギリギリに話をしてきた、
懐かしい一ノ瀬の姿が浮かんで……
「…わかった、行くからチケット寄越せ」
「っ、まじっすか!? あの、今回のは貸しとかは……」
「無くていいから。そんな何回も貰ってたらやばいだろ。自分の数字どうにかしろよ」
「ーーっ、はい!」
このままズルズル引きずるのは、もう嫌だ。
もう一度会って、わけがわからないあの言葉や意味をちゃんと聞いて。
けじめをつけて、前に進みたい。
いい加減、自分の中の想いに ケリをつけたいーー
「……っ」
渡されたチケットを、グッと睨んだ。
***
(そう、だった)
前回は一ノ瀬とふたりで来た。
今回は新坂含め何人かと一緒だが、「まぁ一ノ瀬と話せるだろう」という気で来ていた。馬鹿だ。
「一ノ瀬さんっ、写真撮りませんか?」
「鈴木さん、あのカチューシャ絶対似合うと思うんですけど付けませんっ?」
(数人で行くってこういうことか……)
落ち合って自然と男女1組ずつに分かれ、わいわい話しながらテーマパーク内を進む。
そうだ、新坂も「合コンのメンバー少し誘って」って言ってたじゃないか。
こうなることは予想できたはずなのに……
俺の隣には、向こうの会社の知らない女性。
身長差もあるけど、パンフレット片手に上目遣いで話しかけられ居た堪れない。
チラリと見た一ノ瀬も、うちの会社の子と話していて間に入る余裕なんか無さそうで。
(取り敢えず、後にするか……)
アトラクション、ショップ、レストラン、パレード……
新坂たちを先頭に園内を歩き回って、楽しんで。
途中休憩を挟みながら過ごしていく。
「あ、私あそこのポップコーン買ってもいいですか!? あのバケットがどうしても欲しくて…一ノ瀬さん一緒に並びませんっ?」
「いいよ、行こうか」
「じゃあ俺ちょっとお手洗い行ってきますね」
「私も今のうちに飲み物買ってくる!」
各々がバラバラになり、俺たちの組だけぽつんとその場に残った。
「鈴木さんはお手洗いとか水分とか大丈夫ですかっ?」
「うん、ありがとう。
そっちもバケットは? 良かったら一緒に並ぶけど」
「いいえ、私はあまり興味がないので……」
「そう」
木陰に移動し、ぽつりぽつり話をしながらみんなを待つ。
「ぁ、あのっ、鈴木さん」
「ん? なに?」
不意に、下を向いていた隣の子がこちらを向いた。
「鈴木さんって、一ノ瀬さんに気があるんですかっ?」
「…………え?」
ドクリと鳴る心臓に、息が詰まった。
「今日会ってから私とそんなに目が合わないし、会話してても上の空というか、その…女性にあまり興味が無さそうな気がして……
どちらかというと、一ノ瀬さんを気にしてる様に見えてしまって」
(待、て)
嫌に呼吸が浅くなり、周りの華やかな音が一気に聞こえなくなる。
油断した。
一ノ瀬と話をしたいばかりに、普段気をつけていたことができていなかった。
ーーほら、だから言ったじゃないか。女性は気持ちに敏感だって。
僅かな仕草や視線だけで、簡単に悟られてしまうって。
「間違いだったら全然いいんですけど、その」
軽蔑したような、気持ち悪いものを見るような目。
やめろ、やめろやめろ。
俺は、
「鈴木さんって、一ノ瀬さんのことが好きなんですか?」
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