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告白編1
『先輩、抱かせてください!』
倉田 倫太郎 はスマホに届いたメッセージを読んで、ため息をついた。
送り主は、後輩の佐伯 悠太 。
昨夜、倫太郎が送ったメッセージの返信だ。登校する前に届いた。朝っぱらから口説かれたが、倫太郎は驚かない。
これは、悠太の普通の発言だ。
(なんで男の俺にこんなこと言うんだ、悠太は)
倫太郎は自分の容姿を考える。身長は高いが、細身で筋肉があまりついてない体型だ。顔は中性的だが、鋭い目つきのせいか、怖いとよく言われる。
悠太は、毎日のように倫太郎に迫る。
『思い出にします』
『一生のお願いです』
『俺の童貞を捧げます』
昨夜、誕生日に何が欲しいかを悠太に訊いてみた。で、この返信。
メッセージにはこう続く。
『プレゼントは、先輩の貞操で』
(俺を抱きたいのか……やっぱり、365日チューが原因かなあ)
悠太とは、幼稚園児の頃から仲良しだ。いわゆる、幼なじみ。
あの頃の悠太は泣き虫だった。
倫太郎を『りんちゃん、りんちゃん』と呼んで、べそをかきながら追っかけていた。
『ゆうた、勇気が出るおまじないがあるんだよ』
『教えて、りんちゃん!』
『365日、チューすればいいんだって』
『わかった! りんちゃん、しよう!』
当時観ていたテレビドラマからの知識だった。
一年間、毎日一回、倫太郎と悠太はキスをした。
『今日で365日だね、ゆうた。最後のチューだよ』
『もっと、りんちゃんとチューしたいよ……』
『泣かないで、ゆうた』
365日のキスのあと。悠太は変わった。
『りんちゃーん、大好きー!』
悠太は、倫太郎に惚れていた。
(悠太が俺を好きになった原因は、確実に俺だよな……)
罪悪感が半端ない。
悠太は、背が高い爽やかな男子に成長した。現在、悠太は高校一年生、倫太郎は二年生だ。同じ学校に通っている。悠太がモテモテというのは、倫太郎の教室でも話題になっている。
(なんて返信しようかな)
いつもなら、適当にスタンプをひとつ返すだけだ。
でも、この日は違うことをしてみたくなった。
(一回ぐらい抱かせてやるか?)
正直に言うと......悠太にキスされるのは嫌いじゃなかった。
365日チューは、一年間キスするおまじないだ。だから、いまは悠太とキスしていない。
悠太と初めてしたキスも、おしゃべりしながらした軽いキスも、ふざけて試した大人なキスも、365日目に悠太が涙を浮かべながらしてきた塩辛いキスも、全部覚えている。
悠太と話す度に、無邪気だった幼い自分と、愛くるしかった小さな彼を思い出す。
それは、倫太郎にとって、キラキラした思い出だった。
(キスの延長と思えば、抱かれるくらいどうってことないかな?)
そう思えたら、あとは行動に移すだけだった。
「......よし!」
学校に着いたら、悠太に伝えようと決めた。
(長年の夢を叶えさせてやるんだから、直接会って話した方がいいよな)
放課後、倫太郎は悠太の教室に向かった。
悠太とは学年が違っても、たまにいっしょに帰る。そんなときは事前にメッセージをやりとりして待ち合わせするが、今日はしていない。
(いきなり俺が会いに来て、『俺を抱いてもいいよ』と言う。これ以上のサプライズはないな)
悠太のクラスに着くと、ちょうど悠太が出てきた。
「倫太郎先輩! こんにちは」
悠太は満面の笑みだ。倫太郎は少しどきどきした。
「こんにちは、悠太。あのさ……」
悠太は首を傾げた。
「なんですか?」
「俺のこと好きなんだろ? 抱かせてやるよ」
悠太の顔色が変わった。
「えっ!? ほ、本当ですか!?」
倫太郎はニヤリと笑う。
「ああ。ただし、条件がある」
悠太は顔を輝かせた。
「なんです? なんでもします! 先輩の望みなら、俺はなんだってします!」
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