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告白編2
「条件は簡単だ。俺を抱く前に、必ず告白しろ。これが約束できるなら、抱かせてやる。もちろん、俺もおまえが好きだと伝えてからだ」
「わ、わかりました。絶対、言います! それで、その……先輩を抱けるんですよね!? い、いますぐ抱いてもいいんですよね!?」
悠太は鼻息が荒くなっている。倫太郎は呆れた。
「ちょっと待て! 俺の話を聞いてたか!? まずは告白だ。抱くのはそのあとだ!」
悠太は倫太郎に一歩近づいた。
「わかりました。俺の童貞をもらってください! お願いします!」
悠太は大声で叫ぶ。教室にいた生徒たちが一斉にこちらを見た。
(ここで話すのはまずかったか!? 悠太の長年積もった性欲が重い! 俺には重すぎる!)
倫太郎は後退りした。悠太は両手を広げて迫ってくる。
「倫太郎せんぱーい! 大好きです! 愛しています! 俺の童貞を受け取ってくださああい!!」
倫太郎は逃げようとするが、後ろから抱きしめられる。倫太郎の首筋に悠太の息がかかる。
「ほら、告白しましたよ。これで先輩は俺のもの……」
「いい加減な告白するな、不合格だ!」
倫太郎は悠太の手をほどいた。
「うぐっ、倫太郎先輩、ひどいです! 俺は真剣なのに!」
悠太は泣きそうだ。倫太郎は悠太の頭を撫でた。
(あーあ、イケメンがなんて顔してんだよ……)
「ごめんな、悠太。俺だって、おまえに抱かれたいと思ってるよ。でも、ちゃんと言葉で聞きたいんだ。『抱かせてください』とかじゃなくて、俺を好きって気持ちを伝えてほしい。それがないと、安心しておまえに抱かれない。抱かれたくないんだ」
悠太は目を丸くした。
「そっか、そうですよね。すみません、倫太郎先輩。俺、焦っちゃいました。先輩がOKしてくれたので、舞い上がってしまって……」
悠太はしゅんとする。
(かわいい奴だな)
倫太郎の胸がきゅんとなる。
「気にすんなって。俺が勝手に来たんだしさ。でも、ちゃんと告白してほしいんだ。好きだって言ってほしい。じゃないと不安になる」
悠太は驚いたように目を見開く。それから、花が咲くような明るい笑みを見せた。
「よし、いい子だ」
悠太の髪をくしゃくしゃにする。
悠太は倫太郎を見つめている。
「なんだよ、その目は」
「いえ……倫太郎先輩、かっこいいなと思いまして」
悠太は照れたように笑っている。
(また、そういうことを言う……)
倫太郎は呆れるが、悪い気はしなかった。
「倫太郎先輩。あの……俺、今日、誕生日なんです」
倫太郎は驚いた。
「あ、今日だったか!?」
「はい、本日9月16日で16歳です」
「そうか、16日だったか……」
(一週間間違えて覚えていた……)
「おめでとう。プレゼント用意してないんだけど……」
「ありがとうございます。プレゼントは用意しなくていいんです」
「え」
「俺は、倫太郎先輩がもらえたらいいんです」
悠太は満面の笑みを浮かべた。
「そ、そうか……」
(さらっとすごいこと言いやがって……ほんと、ブレないな……)
悠太は倫太郎の手を取った。
「ちゃんと俺、言葉にするから」
「う、うん」
「じゃあ帰りましょうか、先輩」
「ああ」
悠太は倫太郎を引っ張っていく。
「久しぶりにいっしょに帰れて、うれしいです」
(俺もだよ……とは言わないでおくか)
しかし歩き出すと、悠太はどんどん言葉少なになっていく。やがて無言になった。
倫太郎も黙って隣に並んだ。
グラウンドから練習試合をする野球部員のかけ声が聞こえる。日差しはやわらかく、秋の気配を見せていた。
ふたりは歩道橋を渡った。
目線が高くなったから、色鮮やかな夕日が雲の隙間から見えた。もう少しで駅に着く。
突然、悠太が立ち止まった。
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