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結ばれた春編5
「いいよ」
(さっき「触らないでくれ」って言ったから、遠慮してるのか)
「おいで、悠太」
「やった」
悠太は喜び勇んで倫太郎を抱きしめた。
(あたたかい)
悠太の腕の中にいると、とても落ち着く。悠太の鼓動が伝わってくる。
「倫太郎さん。俺たち、とうとう、しちゃいましたね」
「ああ……」
「あの……気持ちよかったですか?」
「ああ、またしたいくらいだ」
「よかった……!」
(俺が気持ちよくなるか、心配だったのか……)
付き合う前は、抱きたい、抱きたいとしかアプローチしてこなかった悠太。
『先輩を大切にしたいって考える、いい子の俺と、めちゃくちゃにしたいって考える、悪い子の俺がいるんですよ』
恋人同士になったあと、悠太はそう言っていた。
(悠太はやっぱり、いい子だったな……)
倫太郎のことを思って、優しくしてくれた。倫太郎の気持ちを大事にしてくれていた。
「悠太、ありがとう。ずっと悠太に愛されてたってわかった」
「え……」
「悠太の気持ちに応えられて、うれしい」
「……倫太郎さん」
「初めは『抱かせてください』なんて言われてびっくりしたよ。でも、おまえはどんどん変わって、我慢するようになって……。悠太、俺は後悔していないよ」
はっきり口にしないと、悠太は不安になるだろう。
(男の俺が抱かれるのは体にも心にも負担がかかるって、悠太は気づいてるはず。だから、あんなに抱くのをためらっていたんだろうな)
「俺、悠太に抱かれて後悔してない。抱かれてよかったって思ってる」
倫太郎は悠太の背中に腕を回した。
(あれ? 震えてる?)
「倫太郎さん……俺、すごく幸せな気分です」
悠太の声が湿っている。
(泣いてるのか?)
倫太郎は悠太の顔を見ようとするが、肩に顔を埋めているため、表情が見えない。
(泣かないでくれ)
倫太郎は悠太の背中をさすってやる。
「倫太郎さん……俺、絶対に倫太郎さんのこと、大切にします。一生、幸せにしてあげます」
「俺も悠太を幸せにする」
倫太郎が笑うと、悠太は泣きながら笑った。
(笑ってくれた……ずっと俺のそばで笑顔でいろよ、悠太)
倫太郎の頬に触れると、悠太は顔を近づけてきた。倫太郎は目を閉じる。唇がかさなる。
唇を離すと、悠太は微笑んだ。
「もうおまじないをしなくていいから、たくさんキスできますね」
「一日一回じゃ物足りなかったか?」
「もちろんです!」
「俺もだよ」
朝日が差し込む部屋のなかで、ふたりは幾度もくちづけを交わす。
初めて抱き合い生まれたばかりの愛を、全身で感じながら。
【結ばれた春編おわり】
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