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揺れる思い(和樹SIDE)

(和樹SIDE) それから数日、たっぷり休んだお陰で体調はすっかり良くなった和樹は鼻歌を歌いながら学校までの道を歩いていた。 「おはよ、風邪はもう大丈夫なのか?」信号待ちの途中で声を掛けられ振り返ると、心配そうな顔をした雪哉が立っていた。 「もう、おかげさまでバッチリ!」 そう言いながらも顔がにやけて仕方がない。 「なんだか随分機嫌がいいね。何かあった?」 「へへっ、それ聞いちゃう?」 「あ、あー……話したくないなら別にいいんだ」 何かを察したらしい雪哉がそっけなく答えて先に歩き出す。 「あっ、待てよ雪哉ぁ」 「話したくって仕方がないって顔してるね」 追い付いて隣に並ぶと、クスっと笑われた。 「だってさ、寝込んでたらマッスーが来てくれたんだぜ!」 「へぇ、よかったじゃないか。それで? 気になってた彼氏の話は聞いたの?」 「うっ、そ、それは……まだ……」 痛い所を突かれて、もごもごと口籠る。あの時は熱が高くて、そんな事を聞く余裕なんて全然なかった。 けれど、今はもう熱は下がったし……。真実を知るのは少し怖い気もするけど、今度こそちゃんと聞いてみようとは思う。 ずっとモヤモヤしているままなんてやっぱり自分の性に合わない。 そんなことを考えながらコンビニの前を通りかかった時、よく見知った後姿を見つけた。 ふわっと揺れる茶色がかった髪と、すらりと伸びた長い足。いかにも触り心地の良さそうな尻の形……見間違えようもない。あれは透だ。 だがその傍らには、綺麗めな女性が居て浮ついていた気持ちが一気に萎んでいく。 「あれ、須藤先生じゃないか」 「んへッ?」 同じように立ち止まった雪哉に言われ、女性の方をよくよく見てみると、それは確かに2年前に産休に入り休んでいた須藤の姿。 なんであの二人がこんな所で? ふと何を話しているのかが気になった。 「あっ、ちょっと和樹! 盗み聞きとか……やばいんじゃない?」 「雪哉は先に行っててもいいよ」 「そんな事言われたって……」 困惑しつつ一緒に身を潜める雪哉に苦笑しつつ、二人に気付かれないようにそっと近づく。 「奏多、お前。よく堂々と戻って来れたな」 よく通る彼の声が耳に響く。あれ、奏多って……? 「あら、だってまだ籍は残ってるんだし、別に何も問題ないでしょう?」 「それは、そうだけど」 「やだ、もしかして……。透ってばまだ私の事好きなの?」 「はぁ!? 馬鹿言うな。別に、俺はお前の事なんて――ッ」 透の焦ったような声に思わず耳を疑った。どういうことだ……? 奏多ってもしかして、須藤先生の事? 「今の私は人妻なんだから、さっさと諦めていい人見付けなさいよね」 じゃぁね、と手を振り長い髪を靡かせながら去っていく後姿を、透は複雑な表情で見ていた。 「……誰が、お前みたいなクソ女……ッ」 悔し気に歯噛みする透のあんな顔は初めて見た。いつも自信満々で、クールにそつなくなんでもこなす彼があんな風に動揺するところを目にするのは初めてだった。 会話から察するに、二人は昔付き合っていたような雰囲気だった。確か、須藤先生は相川先生と結婚したと聞いていたのに……? 「取敢えず、噂の奏多が誰なのかわかってよかったんじゃない?」 「いいわけ無いじゃん……。寧ろ全然良くない」 どういう事情があるのかはわからないが、あの会話から察するに、透にはまだ彼女への未練が残っているように見受けられた。 「女が相手なんて、俺に勝ち目なんて全然ないじゃないか……」 はぁっと大きくため息をつき、項垂れる。視線の先に居る透がどんな顔をしているのか気にはなったが、とてもではないが見る勇気は無かった。

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