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1「勇者」と「魔王」 4
ハヴェルと村で穏やかに暮らしていた頃は元より、魔王となった後ですら誰とも肉欲を交わさなかったイルフィにとって、自身の内側から湧き上がる濃厚な性の香りは初めてのことである。
内心の動揺を表に出さないよう歯を食いしばるものの、ハヴェルが首筋に顔を埋めると、抑えようもなく背筋に甘い震えが走った。
「ああ、イルフィの匂いだ。村に咲いてたスズランのいい匂いに似てるって、昔から思ってた」
耳の下ですんすんと鼻を鳴らすハヴェルの息は、その子どものように甘える仕草に反して生々しいほどに熱く、冷えたイルフィの肌を火照らせた。
「うっ……」
耳朶を舌先でなぞりながら、ハヴェルの硬い掌が胸を撫で始める。始めは敏感なところをわざと避けるように、段々と円を描いて近づいて、そのじれったい手つきがもどかしい。
「イイの?」
「な、なにが……あうっ!」
不意に指先が乳首を弾き、イルフィは腰を跳ねさせる。
耳のすぐ傍でハヴェルがくすりと笑うと、イルフィは居たたまれなくて羞恥に頬を染めた。
「……かわいい」
感じ入った息を漏らすハヴェルは、そのまま下衣の襟元に両手を差し入れると、
「あっ……!」
腹の下まで一息に、薄い布を裂ききった。
最早隠す用途を失った布を剥ぎ取り、ハヴェルは微笑んだままの顔をゆっくりイルフィの胸に近づける。チラリ、と赤い舌先が唇の間から覗いたかと思うと、そのまま胸の色付いたところに吸い付いた。
「ひあっ!」
片方には舌を絡められ、チュルチュルと音が立つほどに吸い上げられる。
もう片方は指で摘ままれて、指の腹で潰すように捏ねくり回された。
舌と指で執拗に刺激された乳首はぷっくりと勃ち上がっていき、メスのように膨らみを大きくしていく。
「さわるなハヴェル! おまえと私はこんなことをする関係ではないだろう! そもそも私はもう魔物なんだ。おまえの知っている頃とはちが……はぅっ!」
抵抗しようにも、絶え間ない刺激に意識が持っていかれて果たせない。せめて震える唇を引き結ぼうと歯を食いしばるが、その隙間から色付いた吐息が零れてしまう。
「……っ、うっ……ん、ふぅっ……!」
「人間とは違うって? 僕も、魔王になったイルフィがどんな風になってるのかちょっと怖かったんだよね。……でも、全然変わっていなかった。僕を捨てた時の綺麗なイルフィのままだった。ほら、ここだって、人間だった時の肌そのままだ」
開かれた内腿に、ハヴェルの手が忍び込んできたのがわかった。
「うっ……くっ……」
「イルフィの体って、昔から男の割には柔らかくて、どこもすべすべだよね。ああ、気持ちいいな……」
うっとり語るハヴェルが、肉の柔らかさを堪能するように、掌で揉みしだきながら内腿をまさぐる。衣を裂かれたせいで露わになった叢にも股間を押しつけ、こすり合わせるように腰を揺さぶった。
「イルフィ、どこもかしこも気持ちいいよ。すごい、かわいい、大好き」
徐々に熱を高めていくオスの証と、ねっとり這い回る掌の感触は、気持ち悪さと同時に粘ついた快楽も呼び起こしていく。耐えようとするイルフィの握りしめた拳には爪が食い込み、手首の縄は一層肌を締め上げる。
だがそんな痛みすらかき消すほど、イルフィはこすり合わされた股間にじわじわと熱が溜まりつつあるのを感じていた。ハヴェルの手によって、今まで知らなかった官能がイルフィの内側から呼び起こされていく。
「ううっ……く、うっ……!」
「そんな悩ましい顔をするなんて、子どもの頃には知らなかったな」
震えるイルフィに見せつけるように舌を伸ばし、尖らせた先で乳首をれろれろと転がす。右に左に膨らみが倒されて、いじめられ続けて濡れそぼった乳首は、卑猥なほどに赤味を増していた。
ハヴェルの顔が胸から腹、そして腰へと、口づけと共に下っていく。撫でさする掌は内股から膝の裏へ移り、ぞわぞわとしたむずがゆさを感じているうちに、生温かい吐息が叢に吹きかかった。
「ひっ……!」
ぞわり、腰から駆け上がってくるおぞましさすれすれの鋭い快感。
慌てて首を起こす。当たってほしくない予想が的中していたことを目の当たりにし、イルフィは思わず叫んだ。
「やめろ、そんなもの口に……ッ!」
見せつけるように開かれたハヴェルの赤い口内に、イルフィの芯を得つつあった花芯が飲み込まれる。
「や、やめろ、やだ、そんな……ぃやっ……!」
あえかな抵抗も虚しく、温かく柔らかなものに包み込まれた最も敏感な性器が、粘膜とざらついた舌によって舐めしゃぶられた。
「やっ、あっ、ああ……! くっ、ぁっ……」
胸を責められた時とは比べものにならない強烈で直接的な愛撫は、イルフィが固く守ろうとしていた唇の戒めを容易く破壊した。あられもない甘ったるい声が止めどなくこぼれ落ち、ハヴェルは満足そうに目を細める。
「あっ……あぁっ、ひぅっ……!」
自分がこれほどまでに乱れてしまうなんて信じられない。
だがジュルジュルと音を立てて吸い上げられる気持ちよさには抗えず、イルフィは首を打ち振って――のみならず、我知らず腰をくねらせて快感に喘いだ。
「バカな王様達は、魔物が女を攫って魔王に献上してるって言ってたけど、あれは嘘だね。……イルフィ、誰も知らないでしょ。僕に舐められてこんなに可愛くなってるんだから」
魔物達の中には好色な者もいて、ハヴェルの言うような無体を働く外道も確かにいた。『魔王』でありながら人間の倫理観をもつイルフィは、しかしそういった唾棄すべき輩にも好きにさせていた。
イルフィが『魔王』になったのは、故郷を滅ぼされた恨みのため。自分達が慎ましくも穏やかに暮らしていた日々を壊した王国の民全員に、同じ苦しみを味あわせてやりたかっただけだ。
「嬉しいな、イルフィにこんないやらしいことをしてるのは僕が最初。……ねえ、最初だよね?」
ハヴェルの口淫によって育てられ反り上がったイルフィの花芯に、彼が愛しげに頬ずりする。
その瞳は微笑みながらも冷え切っており、望まない答を耳にしたら視線の矢で射殺しそうなほどだ。
(……こんな目をする子ではなかった)
だから彼を自分の選んだ道に連れていきたくなかった。
「あの日」の悲劇を忘れて――忘れられぬとも癒やしていけるような環境に身を置いて、普通の人間として幸せに暮らしてほしかったのに。『捨てる』ことで、彼を守れると思っていたのに。
(ハヴェルが、こんな目をするようになったのは)
自分の出自を隠しながら、自分と同じく最も憎んでいるだろう王国の『勇者』になったのは。
そのために持ったこともなかった剣の技を、恐らく地獄のような辛苦の末に磨き上げたのは。
そして、再び自分に会いたいと願ってしまったのは。
(……私が、ハヴェルを『捨てた』から)
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