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第1話
むせかえるような甘いアロマを焚いた部屋に肌と肌がぶつかり合う音が響いている。
「んはぁっ・・・あぁ・・・もっとぉ・・・」
「っちっ!この淫乱がぁ!もっと腰上げろ!」
「はぁぁっ!ふ・・・ふかぁ・・・イっちゃう」
僕は今あまりよく知らない男に絶賛後ろから腰を振られている所だ。正直こいつはテクも何もなくただ突っ込んで出すものだけ出すというタイプの奴らしい。でも今の僕にとってはお客さんだから、ちゃんと貰うお金の分は仕事をするつもりだ。
「あぁぁ・・・ほら・・・呑み込めよ!!イ・・・クッ!」
男は大袈裟に叫びながら僕の中ビクビクと子種を撒き散らかした。あー大声で叫ばれると萎えるんだよな。こいつはハズレだったな・・・セックスも気持ちよくなかったし。
セックスが終わると僕はホテルの部屋に付いているシャワーを借りて軽く身体を洗った。抱かれた後に好きでもないやつの体液とか匂いが残っているのが気持ち悪くて嫌いだ。こんな仕事している割にはかなり潔癖なのだろうか?
シャワーから出て、お客さんに声をかける。
「今回は指名してくれてありがとうございました。すっごく気持ちよくて訳がわからなくなっちゃいました。よかったらまたあーちゃん指名してくださいね♡」
「う、うん!あーちゃんめっちゃ良かったよ!また絶対行くから待っててね♡!はい、これ今回の分」
そういって男は僕に3万を手渡ししてくれた。
「ありがとうございます、ではまたお待ちしてます♡チュッ♡」
僕は投げキッスをして部屋を出た。
怠い腰を摩りながら歓楽街を通って、僕の所属しているお店に戻った。
カランカラン
「あーちゃん!おかえりー、今日のお客さん大丈夫だった?ちょっとアタシ心配だったんだけど」
「ただいまーくーちゃん〜腰怠い〜めっちゃ下手くそだった〜」
「あらあら、そうだったの。どれ、ここに横になりなさい、ゴッドハンドくーちゃんが少しマッサージしてあげる」
ソファーに横になった僕の腰をくーちゃんはいい力加減で推してくれた。
「あっ・・・そこそこ・・・あぁ・・・気持ち〜」
「はぁ・・・あんたねぇ・・・エロい声出さないでちょうだい!」
「だって・・・気持ちよくて」
「もう!こんな仕事してるんだから少しは自分の身体労りなさい!」
「はぁーい」
口うるさく注意しながらも、いつも面倒を見てくれるのはこのゲイ用風俗店アルカディアの店長のくーちゃんこと釘里さん。見た目はガチムチで髭を少し生やした怖いおっさんだけど中身はオネェだ。
僕高宮葵(たかみや あおい)は現在17歳。先日蔵田高校に編入したピチピチの高校2年生だ。身長は162cmで比較的小柄で、髪は蜂蜜色、目はヘーゼル色だ。何処からどう見ても多分ハーフだ、恐らく母親が外国人だったんだろう。未成年がなんでウリ専やってるかって?僕は家庭環境に恵まれなくて色々あって苦労したんだよ。親父はクズのゲス野郎で借金だけ残してどっかの女のところに転がりこんで蒸発した。母親は記憶にない、同じく行方不明、多分親父と僕を捨てたんだと思う。
どうも僕の見た目は男ウケするらしくて、手っ取り早くお金が必要な僕は中学2年から売春初めた。紆余曲折を経て、くーちゃんに拾われて、ここで働いてるって感じだ。
未成年の僕の保証人になったり、住む場所を提供してくれたり、学費を払ってくれたり、本当にくーちゃんには色々お世話になっている。
「あんた...ご飯食べたの?」
「んー...今日はこんにゃくゼリー食べた」
「また痩せたわよ、育ち盛りなんだからちゃんと食べないと、これから夏が来るってのにあんた倒れるわよ!」
「んーそーだねー」
「もう!しょーがないわね、なんか作ってあげるわ、何食べたい?」
「じゃぁ、カルボナーラ」
「わかったわ、すぐできるから、そのまま横になってなさい」
「はぁーい」
出会った当初は色々と申し訳なくて遠慮ばっかしてた僕だけど、グイグイ来るくーちゃんには徐々にわがままが言える様になった。
もうこの店に来て3年、此処はもはや我が家だ。お店の2階がお客さん用の個室が幾つかあって、3階が住居になっている。僕は3階でくーちゃんと一緒に住んでいる。
僕は今一階のバーカウンターの横にあるソファーで横になっている。今は明け方の営業時間外なのでお客さんもキャストもいない。
このお店にはお酒だけを楽しみにくる人は少ない、デートを一緒にする人から、寝る目的で来る人、キャストを愛でにくる人、お話を楽しむ人、そこで気に入ったキャストを指名して、時間を買うシステムになっている。僕は一応売上は実質No. 1らしい。一応っていうのは未成年だから本来はこういう仕事は法律的には違反しているから、大々的にNo. 1です、なんて言えない。
僕もこの仕事は嫌いではない。偶に身体がきついけど、求められるのは好きだ。自分を必要としてくれることを実感できるし、何より人の体温が心地いい。でもあくまでお客さんとキャストの範囲を超えなければ、っていうのが条件だ。個人的な好意、執着は御免被る。めんどくさいし、何より怖い。
くーちゃんにはそのうちいい人ができるわよ、と言われるけど、僕には無理だと思うんだ。人の好意には裏がある。それを散々思い知ってるからだ。
「できたわよ〜」
相変わらず本当に料理が上手だ。本格的なイタリアンレストランに出てくる様なカルボナーラが出てきた。
「おいしそー、いっただきまーす!」
1日こんにゃくゼリーを少ししか食べていなかった僕にはカルボナーラが身体中に染み渡った。
「おいしーやっぱりくーちゃんのカルボナーラ一番美味しい」
「そう、好きなら偶には作ってあげるわよ。ちゃんと食べないと身長も伸びないわよ?」
「うーん・・・特に困ってないからいいや」
「全く、今日はちゃんと学校行きなさいね」
「えぇ〜仕事上がりで疲れてるのに・・・鬼畜だなぁ」
「貴方ねぇ、前の学校で問題起こして大変だったじゃない!出席日数っていうものがあるの。眠いなら体調悪いって言って保健室で寝てなさい。その前に今日始業式の日でしょ!今日は学校!いいね?」
「わかったよ、そうカリカリしないでよ、禿げるよ?」
「あら!乙女に何をいうのかしら!アタシの毛根強いからね!禿げないわよ!」
「乙女って・・・あーはいはい、学校行きます。食べ終わったら着替えるよ」
「そうしなさい、洗い物は流しに置いといて、後で片付けるから、アタシはもう寝るわ、おやすみ」
「おやすみ〜」
昼間は偶にしか営業してないから、この時間にくーちゃんは寝ている。基本夜営業してるしね。
さて、美味しいカルボナーラ食べ終わったら学校へ行こう。
まず黒のカラコンをして、濃い灰色の眉マスカラで、眉毛を黒くする。そしてネットを頭に被って黒のモサモサのカツラをつける。最後に分厚いでかい伊達眼鏡をかけて、完璧な変装だ。誰も僕のことはわからないだろう。
実を言うと僕は意外と知られてるらしくて、知らないうちに二つ名が出来ていた。西校の荊姫だってさ、凄く恥ずかしい名前だよね!
僕が弱そうに見えたんだろうね、男達が寄ってたかって襲ってくるから、片っ端からボコったらそうなった。僕男なんですけど!兎も角新しく編入した高校では目立ちたくないから変装していく。
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