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第8話
※ハイド視点
いつも見ている不思議な夢を俺はまた見ている。
瞬がこの世界にまだいて俺の傍にいる幸せな夢。
瞬の姿が違っていたが、すぐに瞬だと気付いた。
でも、何故か自分の意思で身体が動かなかった。
触れたいのに、伝えたいのに、手を伸ばせば全て叶うのに、近くにいるのに…届かない。
そして目が覚めて、一気に現実に引き戻されて思い知らされる。
彼は、もう手が届かない場所にいるから届かないのは当たり前だったんだ。
…所詮、夢は夢でしかない…もう夢でしか会えない存在になってしまったんだ。
もう一度、夢でもいいから瞬に会いたくて二度寝をしようとするがそれを許さないとでも言いたげな声が聞こえた。
「ハイド、起きてるか?」
「…お前に会いたくない」
「寝起き早々酷っ!!」
不機嫌な顔を隠しもせず、ソファーに寝転がるハイドを覗き込むリチャードを睨む。
リチャードを無視してもう一度寝ようとするが慌てたようにリチャードが揺すり起こすからリチャードの手を叩き上半身を起こす。
……頭が痛い、最近目覚めが悪いからかこんな事が多い。
最初は寝てたからかと思っていたが、起きている時も頭が痛くなるからリチャードに言ったら俺はなにかの病気らしい。
持病がない俺は不思議に思うが病院に行く気はなかった。
もしこの病気が死ぬ病気ならそれで構わなかった…瞬に会えるなら…と、いつしか俺は自分の死に場所を探すようになった。
リチャードが目を光らせているから自殺は出来ない…だからわざと敵軍に一人で行った。
ただ殺されるのは嫌だ、瞬を殺したハーレー国の仲間なら尚更…
敵軍を全て殺してから相討ちで死のうと思っていたが、俺はいつもかすり傷で殲滅 させてしまう。
……自分を殺せる奴など何処にもいないのだろうか。
やはり死のうとするとリチャードが邪魔をするから上手くいかない。
「お前が二度寝なんか珍しいな、いい夢でも見たのか?」
ソファーが沈みリチャードが自分の部屋のようにくつろいで座っている。
…いい夢、そうだな…いい夢であり…現実を思い出させる残酷な夢だ。
俺が暗い顔をしてるのを見てリチャードは夢の内容に気付き、空気が重くなる。
こんな時幼馴染みというのはいろいろ察してしまい不便だ。
リチャードとは6歳の頃からの腐れ縁であまり自分の事を話さないからかいつしかリチャードは顔色で分かるようになったそうだ。
これで女の子達も落とせると楽しげに笑っていたのは昔の事だ。
「…瞬様の夢か、この前命日で瞬様の墓参りに行ったからか?」
瞬が死んで一年が過ぎ、俺とリチャードは墓参りに行った。
その時、先にアイツも墓参りをしていたが俺を睨み恨み言を言っていた。
アイツは瞬を異常に崇拝していたから…まさかアイツも瞬を…?
今はアイツの事はいい、瞬の墓参りをしたあの日から俺は不思議な夢を見た。
いつもは俺と瞬の思い出の夢なのに知らない夢だった。
姿が違う瞬が泣いている夢、俺の元を去る夢、もう一度…死ぬ夢。
嫌な夢ばかり見るが、夢は自分ではどうする事も出来ない。
さっきはマシな夢だったが、なにか瞬は自分に伝えたいのかと思ってしまう。
…分からない、瞬ともう話をする事も出来ない。
そういえばリチャードはなにか話があったのではないかとリチャードを見る。
この重い空気も息苦しくて早く用件済ませてくれ。
「リチャード、なにか用か?」
「あ、いや…ハイドさ…もう一年も経つし瞬様の事忘れて新しい恋でもっ…!!」
リチャードが言い終わる前に頭に考えるより手が動き頬を殴りつけた。
リチャードはソファーから転がり落ちて口内が切れたのか血が口の端から流れていた。
…アイツは俺を思ってそう言ってる事は分かっている。
死んだ人間を思い続けても幸せにはなれないだろう。
…でも、瞬がいない幸せなんて俺にとっては幸せではない。
瞬が…俺の全てで瞬が傍にいる事が幸せだから…
「俺は生涯たった一人だけに愛を捧げた、絶対に揺らがない…二度とくだらない事を言うな、リチャード」
「…悪かった」
歯で切った唇から流れた血を袖で拭いリチャードは立ち上がった。
俺の本気は一番理解している、そして瞬亡き今俺の幸せを一番に思っているのはリチャードだった。
親友として一番の理解者として俺はリチャードを信頼している。
リチャードだって俺の相手は瞬以外考えられないと思っているだろう。
…でも、死んだ人間はもう戻ってこないからこそ瞬を忘れさせようとしているのだろう。
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