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花言葉を俺は知らない 第1話 | 李林檎の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
花言葉を俺は知らない
第1話
作者:
李林檎
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第1話
早川
(
はやかわ
)
瞬
(
しゅん
)
が異世界にやってきたのは1年前だった。 声に誘われて歩いていたら、気付いたらそこは異世界だった。 綺麗なアイリスの花畑の真ん中にぽつんと立っていた。 ボーッと青い空を眺めていたら草を掻き分ける音が聞こえた。 状況が読み込めてなかった瞬はそちらを見て目を見開いた。 強い風が吹き花びらが舞い…一瞬で目を奪われたのだった。 青みがある銀色の髪にどんな芸能人も足元に及ばないほどの美しい容姿、吸い込まれるような赤い瞳。 開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けてどうすればいいか分からなくなった。 彼は異国の言葉を話した…瞬には理解出来なくて落ち込んだ。 理解出来たらきっと言葉も美しいのだろう、だって声がとても美しい。 青年は戸惑う瞬に何人か言葉が通じない人の行動を知っていた青年はすぐに分かり、瞬に手を差し伸ばした。 瞬は迷ったが、こんなところで一人でいても仕方ないと思い青年の手を掴んだ。 それに青年はさっきまで無表情だったのにとても綺麗な笑みを向けていた。 青年に着いて行くまま歩くとにフィクションの中でしか見たことがない城下町が見えた。 賑やかな出店で何を話しているか分からないが楽しげに話す声、全てが新鮮で瞬は目を輝かせた。 それを青年が愛しげに見ていた事は視界全てに目を奪われていた瞬は気付かなかった。 城下町の人達は青年を見て頭を下げたりなにか話しかけていた。 青年は一人一人に向き合い話していて瞬は青年がとても慕われ優しい人だと思い好感度が上がりっぱなしだった。 元の世界にいた時はこんな感情にならなかった。 瞬は周りにも両親にもいらない子だと言われていた。 だからか大人しく目立たない容姿で空気のような存在だった。 この世界に来たきっかけになったあの時も生きる気力がなかった。 瞬の居場所なんて何処にもなく、何故自分は生きているのか分からなかった。 …今思えば、これが運命の出会いで瞬の初恋だった。 瞬はまだ恋をした事がなくまだそれが恋だと知らなかった。 青年が瞬を連れてきたのは城下町の奥にある目立つお城だった。 間近で見る迫力にビビってしまい固まっていると青年に優しく腕を引かれ城の中に入った。 城の中の中心にある豪華な扉の中で瞬が見たのは真っ白い髭がよく似合う王様だった。 青年は王様に頭を下げるから瞬も真似して頭を下げた。 言葉は分からないが王様は明るい人で笑っていた。 青年がなにかを話して王様が頷くのを眺めて雰囲気が穏やかだから悪い話ではなさそうでほっとした。 何の話か理解する事なく再び青年に腕を引かれてその場を後にした。 廊下を歩いているとさっきまでメイドさんとかが多くすれ違ったのにこの場所は青年と同じ白い軍服の人が多い。 そして一つの部屋の鍵をズボンのポケットから取り出し、開けて青年と瞬は中に入った。 必要最低限のものしかない殺風景な部屋だった。 瞬から離れて青年は机の引き出しを探っているから、きっと青年の部屋なのだろう。 そこで取り出したのは虹色の飴が一つ入った小瓶だった。 青年は小瓶を持ち瞬のところに行き唇を親指でなぞられた。 ドキドキしながら口を開ければいいのだろうかと口を開けるとコロンと小瓶の中の飴を口の中に入れられた。 甘い砂糖のような味が口の中で広がりコロコロ転がす。 美味しくてすぐになくなってしまい残念に思った。 「俺の言葉が分かるか?」 言葉が分かるとこんなに通じるのが嬉しく感じるなんて初めてだった。 あの飴が瞬と青年を言葉で繋げてくれたのだろうか。 瞬が頷くと青年はさっきまでのクールな微笑みじゃなく、少し子供っぽく笑った。 それからベッドに二人並んで座り瞬は彼にいろいろ聞いた、この世界はディールという異世界だという事…勿論瞬がいた日本は何処にもない。 この異世界には時々別の世界から導かれて来る人間がいるらしく、瞬もそうだとすぐに分かったと話してくれた。 あの飴も言葉の通じない異世界人が来た時、もしもの時に用意していたそうだ。 瞬は最初に出会ったのが青年で、とても運が良かったらしい。 青年の名前はハイド・ブラッドだと名乗った、瞬も自己紹介をした。 瞬は日本で大学生だった事、声に導かれてやってきた事を隠さず全て話した。 ハイドは瞬の日本での出来事を一つも疑わず真剣に聞いてくれた。 それどころか「もっと瞬を知りたい」と言ってくれた。 瞬もハイドを知りたくなり、ハイドの事を聞いた。 ハイドはこの国『イズレイン帝国』の王直属の騎士団長らしい。 「だからハイドさんは国民に愛されているんだね」と微笑むと頬を一撫でされた。 驚いてハイドを見るとハイドはジッと瞬を見ていた。 ドキドキと高鳴る胸の音が聞こえない事を祈るばかりだ。 ハイドの男らしさもあり綺麗な形の唇が動いた。 その動きはとても魅力的に感じてボーッと魅入っていた。 「瞬も俺を愛してくれるか?」 一瞬愛の告白かと心臓が止まるほど驚いたが前の言葉を思い出し国民としてかとなんかチクリと胸が痛んだ。 今日会ったばかりなのに、何故か惹かれてしまう。 ハイドには不思議な魅力がある、初めて優しくされたからかもしれないがそれだけじゃない。 真紅の瞳で見つめられると身体が縛られたように動かなくなりいろんな感情がパニックになる。 でも、この気持ちはきっと言っちゃいけないんだと本能が警告している。 ハイドを困らせてはいけないと瞬は寂しそうに微笑んだ。 「異界から来た俺を国民と認めてくれるの?」 「瞬がこの世界を選んで俺の目の前に現れたならこれは運命だろう、俺が瞬を守ろう…誰からも」 そう言いハイドは瞬を壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。 元の世界で認めてもらえなかった自分の存在を初めて認めてもらえた気がして、ハイドに顔を見せないように肩に顎を乗せて静かに涙した。 あれから瞬は住む場所がないから騎士団員の空き部屋を一つもらった。 毎日ハイドと共に過ごし、今まで感じた事がない幸せを感じた。 ハイドは魂の繋がりで引き寄せられた運命だといつも口癖のように言っていた。 城の人達も優しくてすぐに仲良くなり、馴染むのに時間は掛からなかった。 この世界が居心地よくて、元の世界に帰りたくない気持ちが強くなった。 それと同時にもしかしたら来た時と同じようにフラフラと帰ってしまう不安があった。 …元の世界に自分の居場所はなかったし、ハイドと離れたくないといつも不安に思い涙した。 その度にハイドがやって来て頭を撫で背中を撫でてくれるからどんなに救われたか分からない。 瞬はいつしかこの想いが恋だと気付き始めていた。 この世界が、瞬にとってとても大切な居場所になった。 そしてこの国にとっての運命の日が近付いてきた。 イズレイン帝国とライバル国であるハーレー国との戦争だ。 勿論騎士団長であるハイドも行かなくてはならない。 弱い自分が一緒に向かうと足手まといになるからせめて御守り代わりに一つのカップケーキを渡した。 瞬の唯一の趣味であるお菓子作り、ハイドは甘いものが苦手だと言っていたから甘さを最小限に抑えたビターなお菓子を作ったら喜んでくれた。 その中でカップケーキが一番お気に入りだと言ってくれたから戦地に行く前に緊張を解してもらおうと渡した。 ハイドは大切にカップケーキが入った袋を持ち、お返しのように瞬にベコニアの花を差し出した。 ハイドは異国の地の花言葉というのを多く知っている。 その花言葉は瞬のいた世界でも使われていたものらしいが、瞬は花言葉を一つも知らなかった。 ただ、ハイドが渡してくれる花達はいつも綺麗に咲いていて大切にしたいと思っている。 きっと、この花もなにか特別な意味があるのだろう。 ハイドが無事に帰ってきたら、花言葉を聞いてみよう…きっとハイドの想いが詰まってる気がするから… 結果はイズレイン帝国の圧勝で長い戦は終戦で幕を下ろした。 ハイドが先陣に立ち、敵国の兵士の半分以上を倒しイズレイン帝国の英雄と呼ばれるようになった。 ハイドが英雄になったからなかなか会えないだろう、そもそも平民以下の拾われ異界人の自分にハイドが頻繁に会いに来る事が間違っていると思った。 祝福するためにせめてお菓子を用意して騎士団員の誰かに渡してもらおうと考えた。 寂しいけどハイドの邪魔しちゃいけないと思い遠くから見守ろうと決意した。 ハイドは戦地から帰ってきて城下町はお祭りムードとなっている中、人混みの中から瞬を見つけ出して抱きついた。 周りが見ている視線に恥ずかしくなり下を向くが腕は背中に回しギュッと抱きしめた。 一週間しか離れていなかったのに瞬もハイドもとても寂しかった。 そしてハイドに耳元でベコニアの花言葉を聞いて瞬は涙した。 …ハイドに認めてもらえたあの日のように…いや、それ以上にとても嬉しくなった。 泣きながら崩れ落ちないように足に力を入れてハイドにしがみつき何度も首を縦に振ると慰めるように壊れ物を扱うような手つきで瞬の頭を撫でた。 こうして瞬とハイドは皆が祝福する恋人同士となった。 幸せだった…きっとこの世界の誰よりも幸福を味わっていると思っていた。 強くて優しい恋人が出来て…幸せだった、はずなのに… ベコニアの花言葉ー愛の告白ー
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李林檎
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