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もふもふのワンコ

俺は凪隼人。高校2年生。秋の昼下がり、今日も今日とても数学の授業を受けている。山田先生の声は優しくてふわふわしていて、いつも俺の眠気を誘う。 授業が面白くないわけじゃない。ただ先生の声はどうしても眠くなってしまうだけだ。そんなわけで、頭をコクコク揺らして半分夢の中にいる。真っ暗な世界で、先生の声に耳を立てる。 静かだった教室はいつの間にか騒がしくなっていた。授業が終わったのかと目を開くと、そこには見慣れない景色があった。 ……え?ここ日本? 空気が乾燥していて、紫外線と風が少し強い。周りの壁は全て土壁で、全体が黄色く見える。 街は賑わっていて、広い道はぎゅうぎゅうに混んでいる。 みんな薄手なんだなぁと呑気に思い、キョロキョロしながら人の間を抜けて裏路地へ逃げた。 薄暗く涼しい。近くの木箱に腰をかけて溜息をついた。 「ふぅ…疲れたなぁ…」 Ωの俺はβやαよりも劣っている。体力や勉強、何をするにもβやαに負ける。そんな俺に体力や精神力があるわけがない。適応力も低いはずなのに、何故か動揺せずに要られる今が不思議で仕方がない。 漫画でよくある異世界転生っぽい。…そもそも俺って生きてるの?顔をペタペタ触ってみるけれど特に異変はない。 …じゃあ異世界転移?どっちにしても迷惑だなぁ…。俺行く宛ないんだけど。うぅ、どうしよう。ギルド的なのあるのかな…それとも宿?でもお金ないしなぁ…。そんな風なことをひたすら考えていると突然、黒くもふもふした大きな犬が寄ってきた。 「君どうしたの?」 手を伸ばして頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じた。 「迷子?俺も迷子なんだよー。…はぁ、ここどこか分からないし早く家に帰りたいよ…」 もうどうしようもなくて泣きそうになっていると、俺を見上げていた犬が俺のズボンの裾を引っ張った。 「わふっ!」 「なに?どうしたの?」 首を傾げると、犬は少し歩いてから振り返った。来いってことかな…。少し不安になりながら木箱から降りて犬の後ろを歩いた。 犬は心配なのか、時々振り返ってくれる。細い道を通って、広い道に出てしばらく歩くと、白レンガの洋風な家の前についた。 ここで飼われてる子なのかな…。そんな風に思いながら立ち止まった犬を見つめていると、突然犬から白い煙が出始めた。 「え…え?!燃えてる?か、飼い主さんっ」 アタフタしている間にも煙は大きくなって、いつの間にか犬は見えなくなってしまった。 「…し、死んじゃった?」 俺のせいだ。すぐに人を呼ばなかったから…。そんな風に思っていると、煙の中から黒髪で、赤い瞳の男の人が現れた。目がキリッとしていて怖そうだけれど美形。 ポカンとしていると、上裸の男がダルそうに頭を掻いた。 「さっきからゴチャゴチャ何言ってんだよ。黙ってついてこい」 「あ、あの!さっきのワンコはどこですか?」 「あ?ワンコ?ちげーよ。どう見てもオオカミだろ。早く入ってこいよ」 ガチャリと扉を開けて、動かない俺を担いで家に入った。

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