5 / 13

5

「ねぇ行こう。君そういう子だろ?」 「や、ちょっと待ってっ」 お茶してショッピングモール少し回って、終わりかと思ったらなんと夜ご飯まで連れて行ってくれて。 そこまでは良かった、のに…… 何で今、ラブホ前なの? (嘘でしょ、しくった) 初対面に抱かれるほど僕は安くない。 ちゃんとその人と恋愛して、過程も楽しんで気に入ってからヤりたい。我が儘とか別に関係ない。 そういう駆け引きは上手いから、これまでも問題なく出来てたのに…… 「何? 俺がここまでやったのにダメなの?」 (別に頼んでないじゃん!) 「僕強引なのはやだっ、何回か会ってからがいい!」 「おいおい今更純情ぶるなよ。気持ちよくしてやるから」 「男抱いたことあるの?」 「無いけど大丈夫だろ。俺上手いし、君ならイけそう」 「はぁ? そういうの絶対やなんだけど」 最悪。 「男相手は童貞です」な超絶面倒くさいパターンじゃん。 そうやって言う奴大概ヘタクソなんだから、本当に。 「やーだー!離せってば!」 「暴れない。ほら、行こう?」 「もー!!」 チラチラこっちを見る人はいても、誰も助けてくれない。 知ってる、社会ってそういうものだ。 (っ、くそ) 掴まれてる腕が痛くて、いい加減に顔が歪んでくる。 なんとかして離れたいのにーー 「ぁあのっ!!」 「……ぇ」 どこかで聞いたことのある、緊張しているような声。 「ぁの…い、嫌がってるじゃないですか……!」 (はっ、もさ男?) やっといなくなったと思ったひょろ長い男が、またチワワのようにふるふる震えながら立っていた。 「何だあれ……ん? もしかして君の彼sーー」 「ちがーう!!」 思わず即答しちゃったけど違う違う! あんなのが彼氏なわけないじゃん!! 「へぇそっか。ならいいよね」 「ぁ、だから ……わっ!」 グイッ!! 「か、彼氏なんかじゃない、ですっ! この人は…ぼ、僕の好きな人、で……好きな人が嫌がってるのに、こ…こんな事は……やめて、ください!」 「………ぇ」 長い腕に引き寄せられ、背後からぎゅうぅっと抱きしめられる。 え、こいつなにやってんの? そんなキャラじゃないじゃん、頭平気?? 見上げると、分厚い眼鏡の奥から一生懸命前を睨んでるのが見えて、文句を言おうとした口を思わず噤む。 そのまま、暫くシィ…ンとした時が流れて。 「……あーはいはい青春だなぁ、ったく……そういうのは俺みたいな大人の前ではしないでくれる? はぁぁ……わかった、わかったよ。萎えた」 憎たらしそうに言葉を吐きながら、ヒラヒラ手を振り去って行くサラリーマン。 それを、目だけで追って。 「………ちょっと」 「は、はぃっ」 「状況わかってんの? いつまでも抱きしめてないで離して欲しいんだけど」 「ぁ、 ーー!?!?」 は? なに、放心状態で僕のこと忘れてたの? 仮にも好きな相手なんでしょうが。頭の中大丈夫?? (本当何なの、こいつ……)

ともだちにシェアしよう!