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(で、なんでこうなってんの……)
目が覚めたら部屋のベッド。
おでこにはシートが貼られてて、枕はひんやり氷枕。
近くのテーブルにはポカリが置かれてて…なんか、自分の部屋じゃないみたい。
「あ、気が…ついた……?」
ぐわっと勢いよく視界に入る濃い影。
「玄関先で、倒れちゃったから…か、勝手に、運んだ……ご、ごめん」
「……これ、全部お前がしたの? 僕の家知ってたわけ?」
「い、一応コンビニ寄ってた、から……
家は…前、追いかけてた時、た、たまたま知ってーー」
「なんで……」
「え?」
「僕、近づかないでって言ったよね?」
なのになんでこんなことしてんの?
僕あんな事言ったのに。
「が、学校で聞いたんだ…君が、今日風邪で休みだって……それで、い、居ても立っても居られなく、なって」
「居ても立ってもって、今授業中でしょ? ガリ勉がなにやってるの?」
「だ、だって、好きな人が苦しんでるのに、じゅ、授業なんか受けれなくて」
「っ、」
「そ…れに、今日は、クリスマス……だから」
ガサガサと持ってきてたビニール袋を漁り始める。
そしてーー
ガサ…バラバラバラ!!
「メリークリスマスっ、あ、飴井くん……!」
「ーーっ、ぁ……」
逆さにされた袋から零れ落ちてきたのは、大量の大好きな棒付きキャンディー。
「こ、この飴好き…だよね? いつも食べてるの、見てたから……その」
たくさんのカラフルな可愛い粒が、まるで雨みたいに枕元へ落ちてくる。
それがびっくりするくらい鮮やかで…本当に綺麗で……
「だ、だから……って」
「〜〜っ、ぅ、えぇ……」
「!?」
いきなり泣き始めた僕に、オロオロしだすもさ男。
綺麗な景色の中これもなかなか面白いけど、今はそれにツッコむ余裕は…無くて。
「ど、どうしたのっ? やっぱりこんなの……嫌、だった? ぁ、も、もしかして棒がほっぺに当たったとか!? ご、ごめんもう少し離れたところに、落とせば」
「っ、あははは、ちが、馬鹿じゃないのっ?」
「ーーっ、ぁ……」
「? なぁに?」
「飴井くん…やっと、笑った……」
「へ……?」
心配そうにしてた顔が、安心したように息を吐いた。
「お母さんやお父さんは…い、いないの?」
「お父さんはいない。お母さんは、仕事忙しくてあんまり家に帰ってこない……生活感ないなって、思った?」
「ん…そう、だね……でも、そっかぁ……
ねぇ、これから、こ、こういう熱が出た時とか…なんかあった時、僕が駆けつけても……いい?」
「ぇ、なんで」
「心配…だから。君は、いつも1人で……頑張る、から」
(ぁ………)
「中学の時…犬、くれた時から、思ってたんだ。も、もし僕がもっと早い時間に君と会ってたら、良かったなぁって」
あの時の、震える指先。
赤くなってる鼻に白い息。
きっとあの子は、下校時間からこんな暗い時間までずっと外を駆けずり回ってたはず。
マフラーだって子犬にあげて、小さな命を救う為…一生懸命で。
「ムーちゃんを見ながら、いつも君を、思い浮かべてた……
高校で見つけた時は、ほ、本当に奇跡かと、思ったよ」
あの頃と同じ、びっくりするほど可愛い顔と小柄な身長。
女の子と間違われて得意そうに笑ってた。
それからは、色んな人といるのを見たけど……寂しそうな背中は変わることがなくて。
「僕が…その背中を、な、撫でてあげたいなって……抱きしめてあげたいなって…思ったんだ」
それで気づいた。
ーー嗚呼、僕はずっとずっと前から 彼のことが好きだったんだと。
「な…!そんなの違うでしょ、ゴホッ!!コホコホッ」
「ぁ、い、急いで喋らないで」
(違う)
そんなのは恋愛じゃない、同情だ。
僕のこと可哀想って思ってるだけのーー
「ね、飴井くん…知ってる?
飴井くんの笑顔って、本当に、キラキラしてるんだよ?」
「え……?」
作り笑いの時もある。
得意そうに、鼻を高くして笑ってる時もある。
「でも…飴を貰ってる時とか、楽しそうに会話してる、時……す、凄く、綺麗に笑うんだ」
キラキラした笑顔ができる人は、きっと心もキラキラしている証拠。
君の笑顔を、もっともっと増やしたい。
その心が「寂しい」って声をあげないように。
そして、その笑顔をーー
「ぼ、僕がつくれたらなって…それを、1番近くで見たいなぁって……思ったんだ」
「ーーっ」
「飴井くん…ぼ、僕は、君が好き、です……断られたけど、でも、ずっと前から好きだった、から。
ど、童貞とかはちょっと、置いといて……いや、飴井くんにとっては置いてちゃ、ぃ、いけないなのかも…しれないけど……!
で、でも…もし駄目でも、君が他の誰かのものになるまで…こ、こうやって心配させてもらって……いい?
ぁ、この気持ちは、同情なんかじゃないよ。
僕の ーー独占欲」
分厚い眼鏡とグシャグシャの髪で、あんまり表情はよく見えない。
でも、その奥底は凄く優しそうに……ちょっぴり強めに、けど申し訳なさそうにふふふと笑ってるのが分かって。
「〜〜〜〜っ、も、馬鹿なの?」
ぶわぁっと胸が熱くなって、もっと涙が溢れ落ちた。
(こんなの知らない)
なんなの?「童貞は置いといて」って。
冴えないもさ男のくせに、僕に指図するわけ??
こいつよりかっこいい人を、たくさん知ってる。
気持ちいこと、ふわふわすること、いっぱい経験してきた。
なのに……なのになんでこんなに、心臓がキュウッとするんだろう?
こんなこと、初めてで。
「ご、ごめん!」と言いながら再びオロオロし始めるのが、面白くて。
「っ、はは、あはははっ!」
(あぁ、もう いいかな)
もういいや、なんか。
「ね、お腹空いた」
「へ?」
「なんか作れるでしょっ? 僕今びょーにんなんだけど」
「ぇ、あっ」
「冷蔵庫の中、好きにしていいよ。あ、不味かったら許さないから」
「ぁあの、」
「返事!」
「は、はいっ!」
ビシッと敬礼までしてバタバタ階段を降りていく背中を、ベッドから眺める。
そうして、枕元に大量にある飴玉をひとつ取りカサリと袋を取った。
これからどうなるのかは、わからない。
でも……もしかしたら、少しは心が寂しくならないのかもしれない。
(まぁ、あいつ見てるだけでも面白いし?)
暇つぶし的な。
お気に入りたちとどうしても連絡取れない時のパシリ要員的なあれで、ね?
〝僕の ーー独占欲。〟
…………キュンッ。
「は?」
ぇ、今キュンッて言った? ねぇちょっと僕の胸?
やめてよあいつ童貞だよ。え、なに実はそっちの趣味あったとか??
(嘘でしょ……?)
コロンと口に入れると、大好きな甘い味。
ポツリ
「……まぁ、しばらくはこのままで」
多分、あんなにストレートな想い受け取ったことなくて、戸惑ってるだけ。
うんうんきっとそう!終わり終わりっ!!
耳をすませば、カチャカチャ聞こえる料理の音。
美味しそうな香りまでが漂ってきてて、本当に僕の家じゃないみたい。
その感覚を、思いっきり楽しみながら
飴玉がたくさん転がる枕で
ゆっくりと、目を閉じたーー
(ねぇサンタさん。
僕が本当に欲しいもの、わかったかな?
まぁとりあえず……今年は許してあげるよ)
〜fin〜
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