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「っ、」 振り返らなくてもわかる、うわずった声。 「え、は? もさ男? なにどうしたの? ってか、その箱……」 オロオロしてたツッチーの、驚いた顔。 それから僕とあいつを交互に見て、その微妙な空気を なんとなく察して。 「…あーっと、俺また後で届けに行こっかな。いい?」 「……ヒック、ぅ、ん」 「おけっ。そしたらまた!」 顔中「?」でいっぱいにしながら去っていく背中。 これは昼休みに聞かれる、絶対。 でも、今はそれよりーー 「……ぁ、あぁのっ、飴井くん、僕」 「用件だけ言って」 思ったより冷たい声が出て、ビクリとあいつが震えたのがわかる。 でも、振り返ることはしなくて。 少し経ってから、意を決したように僕の目の前へ歩いてきた。 「バ、バレンタイン、ありがとうございましたっ。 僕は、今まで家族以外に貰ったことない、から、びっくりして、その、ちゃんとお礼を言えてなかったと思って。 だから、ホワイトデーでお礼を言おうと思って、プ、プレゼントを準備して」 「………」 「でもその、じ、自信が…なくて、」 「プレゼント」 「へ」 「プレゼント、何にしたの」 「あ、ぁあの、これ です」 渡されたカラフルな箱。 リボンを解くと、箱ぎっしりに僕の好きな飴。 「いろいろ見て回った、んだけど、その、どれもしっくりこなくて…結局クリスマスと、同じに、なってしまって…… ほ、他の人のはもっと凄いんだろうなと思ったら、その、こんなのでちゃんとお礼になるか、不安に、なって」 「……っかじゃないの」 「っ、え?」 「ばっかじゃないの!?!? もっと自信もてよ!!」 色とりどりの たくさんの飴たち。 まるでクリスマスの綺麗な光景が蘇るような、華やかな箱の中。 「僕この飴が1番好きって言ったよね!? なら間違いないんだからさっさと渡せよ! なに戸惑ってんの!?」 「さ、流石にあげすぎかなと思って、その、も、もっとバリエーションを」 「そんな上級者的なことできないでしょ!? もう、なんでこいつはほんとに……っ」 勉強はできるくせにこうもポンコツなんだか。 涙目でキッと睨みつけると、もっとオロオロしだして わたわたしだして。 (はぁぁぁ…もう……) 一気に力が抜け、空へ向かって大きなため息。 それにビクリと震えながら、いつもの猫背を更に曲げ申し訳なさそうに見てくるそいつへ、目を向けて。 「お前、僕のこと好きなんだろ? なら、ちゃんと隣に立てるくらい自分のこと好きになりなよ。 いつまでそうしてんの、だっさ」 「ーーっ!」 「自分のこと信じれるくらい、自信もちなよ」 瓶ぞこ眼鏡の先にある目を、射抜くよう見つめた。 (……まぁ、もういいや 今日は) 元はといえば、期待しちゃった自分も自分だし。 泣いたし言いたいこと言えたし妙にスッキリした。 驚いたように固まってるもさ男に「学校行くよ」と声をかけ、歩きだす。 もさ男とどんな関係を築きたいのか本当にわからない。 けど、少なくとも独占欲どうの言うのなら、それ相応の態度を示してほしい。 矛盾ってやつだよね? ガリ勉くん。 「はぁぁ……」 ツッチーと同じプレゼントなのに、なんか違うと思っている自分が悔しい。 止まらないため息。しばらくはもう止まりそうにない。 手のかかる奴となんでこんなに連んでんだか……自分でもわからないけど、でもどうも手放せないようで。 なんだこれ、親の気持ち? (…いやいやいや) そもそもうちまともな家庭じゃないから親とかわかんなかったや。 ただ今まで付き合ってきた奴と違うから珍しいってだけ。 決して深い意味はない。 僕は、自分の言った言葉に責任をもってもらいたいだけだ。 (僕のこと独占できるような男になるまで、あとどれくらいかかるかな) あ、わかった育成ゲームか。 なるほどそんな感じ。しっくりきた、うん。 長い 道のり。 僕はまだまだこいつに追いかけられる日が続くなと思いながら 仕方ないからそんな日常にも付き合ってやるかと、そろりそろり後ろをついてくる人影にまた空を見上げた。 (大体、その外見が原因なんじゃないの?) (ぇ、) (見た目がそんなだから周りにそういう目で見られて自信失くすんでしょ。 喋り方もそうだけど、まず見た目からどうにかしたら? ほら、瓶ぞこ眼鏡取って髪あげて) (うわ、ちょ、ちょっと、飴井くっ!) (こうすれば少しはお前でもまともになる………って ーーーーは?) *** 〈純情一途なもさい奴 × わがまま可愛い男の子〉 古張 理(もさ男) × 飴井 悠里 あと1話くらい続きそうです。

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