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「あれは、この大国の次に大きな国の王子だ。 流石の私もあの国相手に戦争をするのは難しくてな、そんな時話が来た」 『島国から来ている王族との婚約を解消せよ。代わりに我が王子をそちらへ向かわす』 「正直意味がわからなかった。 何故お前との婚約に口を出すのか、何故王子が来るのか、考えても理解が追いつかない。 そして強引に来た王子もまた、理解できない者だった」 だが、これはいい機会。 こちらが戦争をしたくないように向こうだってそう考えているはず。ならばーー 「あの国は〝代わりに〟と言った。それを利用し、こちらから交渉を持ち込んだ」 『島国の王族の代わりに貴国の王子と結婚する。 我々は互いに侵略をせず、同盟を築くとしたい。王子はその為の架け橋とする。 侵略戦争が終わり次第、結婚は解消し貴国へ返そう』 「この侵略戦争は父からの遺言でな、まだ長らく続きそうだ。 戦争が終わった暁には私は結婚の適齢期を終える。そこで離婚しても、周りの者は〝皇帝は再婚なとせず独身を貫くに違いない〟と諦めるだろう。私の後継は既に決まっているし子どもも必要ない。 だから、お前はこの戦争が終わるのをただ待ってさえいればいいんだ。そうしたら時期お前の元にエリスは来る」 「…そんなに長く待つ現実を受け入れろって言うのか?」 「ならばどうする? お前の国は小さな島国、あの王子の代わりに差し出せるものなど何もないだろう? それとも自国を裏切るのか?」 そんなことはしない。 それをしたら最後、首が飛んで未来など消える。 だから、 「俺をこの国の〝宰相〟にしろ。 政治の方じゃない。戦略の方の宰相だ」 こんなに合理的な奴でさえ終わらせるのに長くかかる侵略。 ならば、俺の脳を貸してやるよ。それならきっと予定より早く戦争が終わるはずだ。 俺たちは婚約では合わなかったが、仕事のパートナーとしてはきっと最適すぎる組み合わせだろう。 「その代わりエリスに手を出すな。 結婚は形だけにして、俺との交際を許可しろ」 「この私に浮気を許せと?」 「そうだ、ってかお前あいつのこと愛してない癖に浮気とか言うなよ。 代わりに俺がその戦争にかかる時間を半分にしてやるよ。 そしてお前も〝愛される〟ということを知ってみろ」 合理的なこの男が愛でどう変わるのか、我ながら興味がある。 「……ふむ、成る程」 閉じていた目が、ゆっくりとこちらを見た。 「いいだろう、と言っても元々お前の処遇は宰相行きだったがな。あの島国を離す予定は無い。婚約を解消してもお前には人質としてまだ国に残ってもらう予定だった。 だが、使える者を野放しにしておくのは勿体ない。だからどうにかして宰相に落とし込む案を考えていたのだ。 それが、まさかこういう形で実現するとは思ってもみなかったが」 「へぇ、なら利害の一致ってことで」 「問題ないな」 結婚はしたくないが、使えるものを合理的に使わないと気が済まない皇帝。 現実的に事実を受け入れ、より良い打開策を作ってさっさとエリスと共になりたい俺。 互いにこれ以上はない。 「明日にでも迎えをやる、城へ戻れ。 戻り次第早急に今の宰相たちと仕事をしろ」 「分かったよ。俺の部屋はエリスと一緒な」 「お熱いことだ」 「ほっとけよ。じゃあ行くからな」 俺は一度決めたらその現実を受け入れんだよ。 いいじゃねぇか別に。 「しかし、あのツバメがここまで変わるとは……」 背中にポツリと呟かれた、皇帝の声。 「…少し、愛というものに興味が湧いたかもしれんな」 「いいじゃん。お前の変わり様を見るのが楽しみだ」 「お前は、私のことを愛してくれていたのか?」 (そうだな……) 愛する努力はした。 この国に来てからの俺は全力だった。 その時間は決して無駄ではないと、思うから。 振り返って、ニヤリと笑ってやる。 「俺の初恋の相手は、間違いなくあんただったよ」

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