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ー鼓動ー58

「ああ、まぁ、そういう事だな」  視線は雄介に合わせられないもののそう素直に答える俺。  昔だったらそういう風に答えられなかったのかもしれない。  それで雄介との貴重な時間というのを何回無駄にしたんだろうか?  だけど今は違う。 今の俺の言葉で雄介の方は料理を運びながら鼻歌をし始めていた。  そしてテーブルにその今作った料理を並び終えると俺の真正面の席へと座り、相変わらずな笑顔を俺へと向けて来てくれる雄介。  その笑顔をまともに見てしまった俺は一瞬だけ胸がドキリとしたのが分かった。  それだって本当に久しぶりな事なのかもしれない。  もう何年も胸の高鳴りなんて事、本当に忘れていた事だったのかもしれないのに……。  きっとあまりにもずっと近くに雄介がい過ぎて忘れていた事だったのかもしれない。 だけど今回ここに来て本当に久しぶりにあの頃でも思い出して胸が高鳴ってしまったのであろう。  雄介と恋人になって、もう何年経つのであろうか。 本当に時が経つのは早い。  そんな事を考えていたら雄介が、 「ほな、いただきましょうか?」 「……へ? プッ!」  そういう風に可愛く言う雄介に思わず俺の方は吹き出してしまっていた。 「へ? 俺、なんかお前が吹き出してしまうような事、言っておったんか?」 「え? あ、違う! 違う! え? あ、まぁ、何だか今の雄介おかしくてな」 「へ? だって、普通にいただきますって言うただけやろ?」 「でもな、ちょっと、なんて言うのかな? 言い方が可愛かったって言うのかな?」 「あ、えーと……」  頬を掻きながら少し恥ずかしそうにしている雄介の表情が面白くて、俺の方はもう一度吹きそうになってしまっていた。  ……雄介って、案外、表情っていうのはコロコロと変わるもんなんだな。 「あ、もう! ええから、ええから、ほな、もう、食べよ」 「あ、ああ、そうだな」  そして二人で「いただきます」と言って雄介が作ってくれたハンバーグを食べ始める。 「やっぱ、お前が作ってくれた料理っていうのは美味いんだよな」 「へ? あ、うん、あ、 ありがとうな」  やっぱ俺がこう素直に言うと逆に雄介の方は調子狂っちゃうのかな? だから今の俺の言葉で少し俯き加減になっちゃったんだけど……。

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