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ー鼓動ー65

 そこで俺と雄介とで視線がぶつかってしまっていた。  暫く沈黙が流れてしまった後。  もう一度、雄介は真剣な表情をしてきて、そっと俺の肩を両腕で抱き締めて来てくれる。  そして俺の耳側で、 「やっぱ、俺、望と出会えて良かった気がするわぁ。 こう、望とおるといつも胸がドキドキとしてな、望の事を忘れてないっていうんか、最初の頃から心の中が変わらないっていうんか、なんていうんか、まぁ、望と居ると初心の頃に戻れるって言ったらええのかな?」  そう言う雄介の胸からは確かに鼓動の音が伝わって来ているようにも思える。  俺はその雄介の一言にひと息吐くと、 「俺も雄介と一緒だからさ、好きだっていう気持ちは最初の頃と変わらないからな」  俺がそう言うと雄介の方は顔を上げて来て再び視線が合う雄介と俺。  そして雄介の方は軽く俺に向かって微笑んで来てくれる。  俺もその笑顔に釣られてなのか、いつの間にか雄介に向かって微笑んでいた。  昔と今の俺等なら今の俺等の方が幸せなのかもしれない。  だって、それは俺が雄介に対して素直になってきているからなのだと思う。  昔の俺なら今のこの状況だったら完全に雄介からそっぽを向いてしまっていてツンとしていただろう。 そして雄介の顔なんてまともに見ていられなかった筈だ。  そして恋人同士にとって大事な言葉でもある愛の言葉だって素直に言えてなかったのだから。 「ま、ええわぁ……逆上せてまう前に風呂出よ。 んー、逆上せるっていうんか、正確にはお湯が冷めてきてるしな」 「え? あ、そうだな」  せっかくいい雰囲気だったのに、お風呂でだとここまでが限界だったのか雄介にそう言われて温くなってしまったお風呂から上がるしかなかった。  二人同時にお風呂から上がる。  このお風呂場っていうのはそんなに狭くない。 大人二人でも悠々に入れる広さはある。  二人で脱衣所で体を拭いていると、 「ほな、これから、どないする?」 「へ? あ、そうだな?」  多分、雄介は普通に俺に聞いて来たんだろうが何故か俺の方は顔を真っ赤にさせてしまっていた。  きっと、その一瞬で雄介と体を重ねる事を想像してしまったからであろう。 「あ……」  本当に気が抜けている時というのは、ろくな事を考えてないような気がする。  そうだ。 今回の目的というのは雄介の事を病院に行かせて検査をしてくるというのが目的なのだから、今はそんな事を思っている場合ではないと首を振る。

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