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ー鼓動ー66
「あ、いや……なんでもない」
今の事を思い出しそうで俺は顔を俯けながらそう答える。
それに気付いていないのか気付いてないのか分からないのだけど雄介の方は無言で服に着替えていた。
「ほな、部屋に行こうか?」
「え? あ、そうだな……」
何も言って来ない雄介にホッとしたような残念なような気持ちになって来る。
……ま、いっか。
そう思うと俺の方も洋服へと着替え一緒に廊下を歩いているのだけど雄介が急に足を止め、俺は雄介にぶつかりそうになっていた。
「……って、何だよっ! 何で、急に足を止めたんだ?」
「あ、えーと……ここに戻って来たのはええねんけど、俺達が寝る所って?」
「あれ? 流石に二階の部屋はきっと朔望達の部屋になってるんだろうから、地下になるって事なのか?」
「あ、ま、いや……そういう事になんやろなぁ?」
地下室という言葉で雄介の方も言葉を詰まらせてしまったようだ。
そうこの家の地下室という所は例の大人な部屋の事だ。
寧ろ、そういう事を目的とした部屋と言っても過言ではないという事だ。 それに壁や棚にはそう言った玩具関連の物が沢山あって自然と目に入って来てしまう所でもある。
だから雄介の方は言葉を詰まらせてしまったという所だろう。
「え? あ、まぁ……そこしか今は寝る所は無いんやもんな?」
「あ、あー、まぁ、そういう事になるんだよな?」
「あー、ま、えっか……」
そう雄介の方はまだ納得いかない様子であったのだが、確かに今の俺達の寝床というのはその部屋しかないというのが現実だった。
雄介は仕方なしに、その部屋へと足を向ける。
その地下室というのは階段の裏の方にあるのだ。
前と変わらない扉のドアノブに手を掛けて、電気を点けると雄介と俺は地下室へと降りて行く。
そしてもう一つあつ扉を開けると一ヶ月前とそのままにそこには部屋があった。
「やっぱ、ここも何も変わってへんよな?」
そう確かめるかのように聞いて来る雄介。
「え? あ、まぁ……そうだよな」
今の俺にはそう答えるしかなかった。
それにこの部屋に最後に入ったのは何時だったのか忘れたのだが、朔望達もきっと利用している部屋なのに本当に前と変わった様子が無い部屋だ。
棚や壁には玩具等が置いてあってローションも様々な種類の物が置いてある。
今の俺達には目のやり場に本当に困る部屋だ。
「あ、うん……ほな、どないしよ」
「へ? だって、ここには寝る為だけに来たんだろ?」
雄介が言っている謎の言葉に俺は普通に突っ込みを入れるのだ。
……うん。 悪いけど、ここにヤる目的で来た訳ではないんだからな。
その雄介が「どうしよう?」の意味が俺には分からなかった。 寧ろ、そのままここには寝る目的で来た訳で体を重ねに来た訳ではないのだから。
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