113 / 855

ー鼓動ー113

 気付くと外は暗くなってしまっていた。 さっきの時間はまだ日が沈んだばかりの時間だったのだから当たり前なんだろうが、それだけ、この飲食店にいたという事だろう。  眠らない街東京。  本当にその通りだ。  ここは特に夜にオープンしているお店が多く、キャバクラやホスト店があって賑やかな場所なのだから余計になのかもしれない。  居酒屋だって今の時間帯っていうのは盛んな時間でもあるのだから。  でもこの辺りというのは、そういった飲食店からも少し離れた所にあって繁華街に比べたらまだまだ静かな所なのかもしれない。  また雄介は俺の先を歩き始める。  それでも俺は雄介の歩調に合わせて歩き始めていた。  しかしこの辺りのホテルには雄介とは行った事が無い筈だ。 「な、雄介? この辺りのホテルには行った事がなかったよな? しかも、いつもは車だし……」 「え? 今はな、これがあるから大丈夫なんやって!」  そう言って雄介が見せてくれたのはスマホだ。 「せやから、今はスマホがあれば何でも検索出来て案内してくれるんやって、ま、それなら、土地勘ない俺でも歩き回れるって事やんな」 「あ、そうか……確かにそうだったな」  ならスマホ関係の事は雄介に任せて、俺は雄介に付いて行くしか今はなかった。 「あ! ここら辺かな?」  そう言って雄介が見上げた先には確かにホテルらしい建物がある。 「ほな、もう見つかったし、行こっ!」  そう言って雄介は俺の手を取って来てくれる。  前まで、そういう事してくれなかったのに、本当に雄介っていう人間は医者になってからは特に変わったかのように思えるようになってきた。 「え? あ、ちょ……って、雄介! ココ、まだ外っ!」 「分かっておるって……でも、ここら辺やと人通りも少ないし、暗いねんから、手繋いでるの見えへんやろ?」  そう言われてみれば確かにそうだ。 確かに周りは意外に暗い。  だからなのか俺は雄介の手を振り払わずに歩き始める。 そして俺達は目的地であるホテルに着いた。  流石にまともに周りを見ていられなくて雄介に半分引きづられるようにして中へと入って行く俺。  雄介はそんな俺に気付いているのか、俺の手を離さずにいてくれた。  目の前にあるパネルで部屋そ選び、後は部屋へと向かうだけ。  それでも俺はまだ顔を上げる事が出来ない。  雄介に引きづられるような感じでエレベーターへと乗り込む。 そのエレベーターでさえ何階に向かうのかさえも見てなかった。  そしてエレベーター特有の電子音を聞いて俺達はその階で降りる。 「あ、えーと……どこの部屋になるんやろ?」  そう独り言ように言う雄介。  確かにこの階のフロアにはいくつもの部屋がある。 俺はそこで仕方無しに顔を上げるのだ。 「おい……ここに番号書いてあるじゃねぇか」 「あ、ホンマや」  分かってたのか分かってなかったのか? っていうのは分からないのだけど、雄介は俺が言った通りにその部屋へと向かうのだ。

ともだちにシェアしよう!