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ー鼓動ー187

 出勤時間なのか、いそいそと駅の方へと向かっているサラリーマン。  そして色々なところで挨拶が聴こえてくる。  これが日常なんだと改めて知った瞬間だった。  今までの俺達は朝車で病院へと出勤していたし、そこまで周りを見てる余裕なんかなかったのだけど今は歩いているというのもある。 だから時間があるからこそ見ていられるのであろう。 「なんや東京やって、こう見るとゆっくりとした時が流れているんやなぁ」 「へ? あ、ああ、そうだな」  そう雄介に言われて気付けたような気がする。  確かに今までの俺達は時間に追われ余裕がなかったから東京というのは時間の流れが早く感じていたのだけど、どうやらそうではないらしい事に気付く。  毎日のように忙しかったから、東京という街は時間が流れるのが早く感じられていたのかもしれない。 こうのんびりとした時を過ごしているとそうは感じられないのだから。  そして住宅街を少し抜けた所に川がある。  そこの土手を歩いて行くと春坂病院へと近くなる。  朝の土手だって気持ちがいい位だ。  本当に島と変わらない時が流れているような気がするのだから。 「ま、川沿いやと日陰がないから少し暑いんやけどな」 「まぁ、そうだな」  でも周りに何も建物とかがないお陰なのか風が横を通り過ぎて行く。  その風のおかげで少しばかり汗が引いたような気がした。  でも、歩く事でエネルギーを使ってるからなのか、じわりじわりと汗が滲んできたようにも思える。  川の流れる音をBGMに歩みを進める俺達。  しかし、どうしたのであろうか? いつも何か話しをしてくる雄介なのだけど、さっきから黙っているような気がする。  それを不思議に思い俺は雄介の事を見上げ、 「なぁ、雄介……大丈夫か?」  そう心配そうに俺は声を掛けた。 「……へ? 何がや?」

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