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ー至福ー44
「あ、そうでしたか……。 では、下で待ってるので来て下さいね」
と今日の裕実はそこまで言ってベッドから腰を上げる。
……へ?
と心の中で拍子抜けな俺なのだけど、こういう時、どうやって引き止めたらいいのか? っていうのが分からない。 あ、いや……別に引き止める必要も無いのだけど……。
でも俺の心の中で裕実の事を引き止めたいというのがある。
本当、俺っていうのは素直な性格ではないと改めて思うのだ。
当たり前なのだけど、心で思っている事と口に出して言う言葉とが全く違うからだ。
それが原因で雄介と付き合った頃に喧嘩をしていた。 そうお互いにまだ二人の性格を知らなかったのだから言葉だけが頼りだったからなのかもしれない。
そうだ。 雄介が俺の事を後ろから抱き締めて来て、「離せよ」と言ってしまった時がある。 その時の俺っていうのは、雄介の事を好きになり始めた頃だからこそ、あまり会えない雄介の温もりを覚えてしまうと、その温もりがなくなってしまうと寂しくなるから温もりを体に刻みたくはない。 という意味で言ったのだけど、やはり「離せよ」だけでは、雄介には通じてなかった。 そう雄介的に俺に『嫌われた』と思っていたのだから。
そこの問題は和也が何とかしてくれたから、俺達の仲っていうのは元に戻れたのだけど、もし和也がいなかったら雄介と俺というのは今もまだこういう関係ではいられなかっただろう。 それと雄介が医者になるっていう事もなかったんだと思う。
人生って色々な道に別れてるっていうのだけど、その選択肢の中でどれを選ぶかによって未来への道が変わって来るって言われている。
確かに今までの俺達の人生っていうのは、その選択肢が沢山あった。 だけど、その度に何回も話し合って決めてこうやって進んで来た。 だけど俺は別に間違った道を進んで来ているとは思ってはない。 寧ろ雄介といると本当に幸せな気持ちにも素直な気持ちにもなってきているのだから。 だから俺は雄介を好きになって良かったとさえ思っている。
雄介が医者になる選択肢も色々な場面であった。
雄介が消防士だと将来が見えないからと言って、俺と同じ道を歩もうとしていた事がある。 その時の俺っていうのは猛烈に雄介が医者になる事を反対していた。 だけど雄介っていうのは一度決めたらわりと折れる事はなかったのか、何回も話し合って最終的に雄介は医者になってくれた事もあった。 いやぁ、あの時はあれだけ話し合ったから、雄介が本気で医者を目指してくれたのだと思う。
……もし、あそこで適当に俺が許可していたら?
雄介がここまで真剣に医者としてやってくれていたのであろうか?
そこは分からない所だ。
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