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ー至福ー43
次の朝、俺はいつものように起きると相変わらず隣には雄介の姿はなかった。 昨日、雄介との間が気まずくなってしまった為、半身だけを起こして膝を立てて、そこに頭を乗せ息を吐く。
今日はもう昨日の夜の事で完全に俺の方は憂鬱な気分だ。
いつもなら起きて直ぐに階下に行って、テーブルで新聞を読んでいる頃なんだけど憂鬱過ぎて体が動かない。
雄介とマジで喧嘩したつもりではないのだけど、昨日の事で二人の間が気まずくなったのは確かだ。
俺は暫くそこで膝の上に顔を乗せて考え事をしていると、ノックの音が聞こえて来る。
ノックしてくるっていう事は少なくとも雄介ではないだろう。 そうだきっと雄介から昨日の夜の事を聞いて和也が俺の事を呼びに来てくれたのかもしれない。
「望さん? 起きてますか? 朝ご飯が出来たって雄介さんが呼んでましたよ」
……あ。
和也じゃなくて、どうやら裕実が俺の事を呼びに来てくれたらしい。
まぁ、そういう事だよなぁ。 昨日の夜、空気重たくしちまったんだから、当然、呼びに来るのは雄介じゃねぇよな。
と俺の方は再びため息が出る。
しかし裕実というのも本当に遠慮深い奴だと思うのだ。
親しき仲にも礼儀ありっていう所であろうか。 きっとこれが和也ならノックして直ぐに俺達の部屋の中に入って来るんだろうが、裕実の場合には俺が許可しない限りは部屋の中には入って来ない。 そうここは一応俺達のプライベート空間だと思っているからだ。
「望さん、ちょっと僕入ってもいいですか?」
……ほら、やっぱり。
裕実の場合にはそうやって聞いて来る。 思った通りだ。
ま、そこは裕実には非は無いのだから、俺の方は怠そうになりながらも、
「ああ……」
と答える。
すると許可を得た裕実は部屋の中へと入って来ると、丁寧にドアを開けドアを閉めた後に俺達のベッドの端へとちょこんと座って、
「どうしたんです? 望さんがこの時間に下にいないなんて珍しいですよね?」
そう笑顔で言って来る裕実なのだけど瞳の奥っていうのは真剣に言って来ているようにも思える。
やはりそこは裕実という事だろう。 そんな裕実に俺の方は負けてしまう時があるのだから。 いやそれを感じているのは俺だけではないと思う。 そうだ裕実は看護師という仕事をしているのだから、患者さんもこんな裕実の瞳に色々と負けてしまうのであろう。
だけど俺の方はそんな瞳から視線を逸らして、
「あ、いや……ちょっと寝坊しただけだ……」
と誤魔化すように答えるのだ。
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