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ー至福ー76
本当に初めて雄介と二人きりになれた日。 俺達の仕事っていうのは、俺が医者で雄介が消防士だったから、あの頃っていうのは忙し過ぎて、雄介が退院して約一ヶ月後に会えた位だった頃だ。 あの時、俺は雄介に後ろから抱きしめられたのに「離せ……」と言ってしまっていて雄介はその俺に言葉を真に受けてしまって、その時の雄介っていうのは「俺に嫌われた」と思ってしまったから俺から離れて行ったのだけど、あの時の俺っていうのは、後で雄介にも話をしたのだけど、「自分達は忙しいから、そんなに会う事は出来ない。 だから、体が雄介の温もりを覚えてしまいたくないから、あの時俺は『離せ』と言ってしまったんだ」と言ったら、それからの雄介っていうのは、何かあると使ってもくれたし俺にも要求して来たんだっけかな。
それで今も雄介は俺が言った言葉で気に入ったから使ってくれているんだと思う。
まぁ、雄介もそう思ったから使ってくれているんだと思うんだけどな。
だけど、やっぱそれとこれとは違う。 だって唇から手を離したら、俺の声が雄介に丸聞こえな状態になる訳だろ? そんな事、俺は恥ずかしくて出来ないという事だ。
だから俺の方は軽く首を振ってみる。
その俺の行動に雄介は気付いてくれたのか、
「そっか……なら、ええわぁ……。 やっぱ、俺の性格からすると無理強いってしたくないしな」
そう俺に向かって微笑んで来てくれる雄介。 なんかそこは雄介らしいっていうのかもしれない。 だけど、その部分も散々、雄介とは話して来たような気がする。 だけどそれはそれで雄介らしいんだから、俺はもう文句は言わない。 そう仕事ではちゃんと行動力も決断力もあるんだから、それはそれでいいのだから。
だけど、やっぱ口は手で塞がない方がいいのかな? 俺的には分からないのだけど、男ってこういう時の声って聞きたいんじゃないかと思う所だ。 だけど自分から離すのはな、やっぱ恥ずかしいから……いいか。 となってしまった俺。
さっきまで雄介は俺の肩ら辺の皮膚を集中的に吸っていたようにも思えるのだけど、急に体がビクつくような刺激が体中を巡ったような気がする。
「ぁ……え? ちょ、やぁああん!」
背中を逸らした瞬間に唇から手が離れてしまい、俺の口から思わず出てしまった声っていうのは、普通にいつもの甘い声だ。
その俺の反応に再びクスリとしているような雄介。 やはり男なのだから、あれが雄介の本性なのかもしれない。
もう俺は雄介には何も言わない。 そんな雄介を俺は好きになったのだから。 いや雄介の事はもう本気で愛してるってなったのだから。 もうどんな雄介でも俺は構わないという事だ。
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