371 / 855

ー信頼ー91

 今、雄介は俺の事を背後から抱き締めてくれているのだが、その言葉で急に雄介に甘えたくなって体を完全に雄介に預ける。  多分、雄介の事だから急に俺が体を預けたとしてもちゃんと支えてくれるだろうと思ったからだ。  完全に雄介に体を預けると、案の定、雄介は俺の体を支えてくれていた。  そこにも何だか今日は安堵感だ。  雄介の方はやっぱり不思議そうな顔をしていたのだけど、直ぐに俺に向かって微笑んでくれて、今度は二人で幸せな時を噛み締めているような気がする。  さっきまで体を重ねていたのだけど、今はもう何だかそういう気分じゃなくなってしまったような気がする。  だから俺は、 「な、雄介……これから、またスるのか?」  と聞いていた。 「ん? んー……」  考えるって事は、もう雄介も特にシたいとは思ってないのかもしれない。 「そやね……なんやろ? 望とこうしてただただゆっくりしていられるのもええのかもしれへんな」  そこに俺はクスリとする。 「俺もだったからさ……」 「そういう事なぁ……」  雄介の声が俺の真上から聞こえて来る所からすると、雄介は俺の方に顔を向けて言ってくれているのであろう。 「ほなら、ゆっくりしよ……」  そう言うと今度雄介は俺の頭を撫でて来てくれるのだ。  本当にこうしたちょっとした事が気持ちいいと思う。  ちょっと恋人が体に触れて来るだけ、キスをしてきてくれるだけ、本当にちょっとした事を恋人がしてくれるのは、本当に幸せな時だ。  こんな時が少しでも長く続いたらって思うけど、人には生活っていうのがある。 まだ和也達と一緒に住んでなくて、東京に住んでいたなら食事もしないで二人だけの空間を長く満喫する事が出来たのであろうが、島の生活、いや和也達と一緒に暮らしている今では夕方になる頃には完全に動かないといけないだろう。  食事当番だってあるのだから。  もう少しだけ雄介とのこの時間を大事にしよう。 この幸せな時間を大事にしよう。  二人何も話さないで、雄介がただただ俺の事を抱き締めてくれて頭を撫でているだけの時間というのは、外からの波音しか聞こえて来ない。  引いては押し寄せ、引いては押し寄せ、本当に自然の音というのは癒されるような気がする。 「何だかさ、ここに来て良かったような気がするよな……」 「ん? まぁな……確かに大変な事もあるけど、そこは和也達も一緒になって話し合う事が出来るかんなぁ。 和也だって、言うけど、望が言う程悪い奴じゃないと思うねんけどな」 「ん? あ、まぁ……な。 俺だって、別に和也の事は嫌いじゃねぇよ……じゃなきゃ、こんなに長く医者と看護師としてパートナーにしてないからな。 内心では和也の事、凄いって思ってる時だってあるんだからな。 ま、きっと俺が言葉にしないっていうのを和也は知ってると思うから、和也の方も俺の言葉をいいように取ってくれていると思うぜ」

ともだちにシェアしよう!