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ー信頼ー90

「ん?」  と雄介はわりと腑の抜けた返事をしていたのだが、次の瞬間には、 「まぁな……それは、俺が望の事を好きだっていう証やかんな。 あ、いや……望ん事、愛してるっていう証拠っていう事やんなぁ」  本当によくそういう恥ずかしい言葉を雄介の場合、わりと簡単に口にしていると思う。  そんな恥ずかしい言葉っていうのは、そう何回も口にするような事ではないからだ。  と俺は思っていたのだが、俺の心を読んだかのように雄介は、背後から俺の事をしっかりと抱き締め、 「今やったら、こう心の中から心を込めて望に『愛してる』って言えるわぁ……。 だって、俺等はもう結婚するんやろ?」  その雄介の言葉に俺の鼓動が更に早く波打ち始める。  確かにそうだ。  雄介の場合、今まで俺に『愛してる』っていう言葉を沢山言って来たけど、今日は本当に雄介とは真剣に話をして、結婚をするまで考えている人なのだから、こう心から『愛してる』っていう言葉を言えるのかもしれない。  今、雄介に向かって心の中で俺が言ってしまった言葉は前言撤回だ。  だけど俺の方は、そんな深い言葉をそう簡単に言える訳ではない。  ただこの島で台風があった日、全力で雄介は沈没してしまった船に救助に行って帰って来なかった雄介。 その次の日には雄介はこの島に帰って来て、その時にはこう何でか思わず雄介に向かって『愛してる』とは言ったのだけど、『愛してる』っていう言葉は本当は凄く大事な言葉で本当に大切に思っている人にだけ言う言葉だと俺は思っている。  だから雄介に言う言葉なのかもしれない。  変に納得してしまっている俺。  そう思った直後、俺は雄介の腕を掴んで、 「俺も……」  とは言ったものの、それだけでは雄介には通じていないというのか、そこはやはり俺の方もちゃんと言葉にして言わないと相手に伝わらないというのは大分雄介とは話し合って来たのだから、 「俺も……お前の事、愛してるから」  その俺の言葉に雄介の動きが一瞬止まったかのように思えたのだから、多分、目を見開いていたのかもしれない。  いや雄介の胸の鼓動が更に早くなったような気がする。  確かにこうやって恋人と体を重ねる事もいい事だけど、こうやって愛を確かめるっていうのもいいもんなのかもしれない。 体を重ねるという胸のドキドキとまた違ったドキドキがあるような気がする。  そして頭の中もほわほわとした感じだ。  もしかしたら、これが幸せの時という事なのかもしれない。  確かに人によっては感じ方は違うのかもしれないけど、俺の場合にはこれを幸せな時としてもいいだろう。

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